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片隅から一冊

nagai

自分は時代の空気の人体に及ぼす生理的作用の如何を論じたい……。然し夏の日足は已に傾きかゝつて来た。涼しい風が頻と植込の木の葉をゆすつてゐる。縁先の鳳仙花は炎天に萎れた其葉をば早くも真直に立て直した。古い小袖を元のやうに古い葛籠にしまひ終つた家人は片隅から一冊宛古い書物を倉の中へと運んでゐる。自分は又来年の虫干を待たう。来年の虫干には自分の趣味はいかなる書物をあさらせる事であらう。

虫干/永井荷風
日本の名随筆 (36) 読 単行本 – 1985/10