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『本の島』

Quignard

九州は島だから(日本列島全部島だよ、という話はともかく、明らかにくっきりと島だと認識されている、という程度の意味で) 本を好きな人が目指す島になったらうれしいし楽しいな、と思っていた。
真っ先に浮かんだのは「本の島」という言葉で、あまりにも簡単に出てきたので、これは絶対誰もが思いつくし、本屋さんだとかブックカフェだとか、どこかが登録商標にしているに違いない、と思った。
とりあえず、そういうときはGoogle先生にお尋ねするのが早いわけで、「ぐぐった」 加地の目に飛び込んできたのは、本屋だとかなんだとかではなく『本の島』だった。

『本の島』というのは、青土社で編集者をなさっていた津田新吾さんが提唱したものだ。
残念ながら、津田さんは若くして亡くなって、後には彼の手掛けた美しい本たちが残った。
遺志をつぎたい、という出版人や作家やいろんな人たちが、そうして『本の島』という冊子を発行した。

加地が知ったのは、おおむねそういう事だ。
名物編集者、といえばいいのか。津田さんは多くの人に慕われ、尊敬され、愛されていた。
すごいな、と思い、このひとが手掛けた本っていったいどんな本なのだろうと、一覧を目にして二度驚いた。

青土社、という出版社は、日本中の誰もが欲しがる本ではないかもしれないけれど、絶対に欲しい人が居る、そういう本を堅実に誠実につくる会社だ。
加地の本棚にも何冊も青土社の本はあって、その大半が、なんと津田さんが手掛けた本だった。

こんなことってあるのか、と呆然とし、それから愕然とした。
この本を手掛けた人は、もういないのだ。

居てもたってもいられずに、加地がしたことといったら、二年も前に参加させていただいたフランス現代文学最高峰と名高い作家パスカル・キニャールのシンポジウムでお目に掛かった高橋啓さんにメールすることだった。
高橋啓さんは翻訳者だ。青土社から出版されたキニャールの本は高橋啓さんが翻訳している。
キニャールシンポで、高橋さんはご自分の訳したキニャールの小説の一節を朗読した。素晴らしい朗読だった。
そんな場で「高橋先生の訳文が本当にすきです」 とのたまっただけの見ず知らずの一般人を先生が覚えておられるとも思えなかったが、ともかく加地はメールをしたためた。
突然すみませんと書き綴ったこのメールに、高橋さんは丁寧なお返事をくださった。津田新吾の名を出されては、お返事をしないわけにはいきませんと、そう書いてあった。

津田新吾さんという編集者は、なんというひとだろう。

呆然と立ちすくむ思いで高橋さんのメールを何度も読んだ。
本は、編集は、文学は、こういう力を持っているのだ、と思った。

加地は、九州を本の島に、しようと思う。
一冊の本を求めて出掛ける先が、九州であるような、そういう島に、しようと思う。
『本の島』に遠く及ばずとも、せめて。
ここに本の島を、つくりたい。