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まっすぐに、すきなものだけ

201502131

 すごくいい本屋さんとか出版社さんとか、あるかないかと言ったら、ある。
 少なくとも、加地の知る範囲には、ある。

 本屋さんなら古書店のポアンカレ書店さん(熊本)、カモシカ書店さん(大分) を始め、普通の本屋さんだって、長崎書店さん・長崎次郎書店さん(熊本)、ブックスキューブリックさん(福岡)、かもめブックスさん(東京) みたいに、幾らでも挙げられるし、出版社さんだって、尊敬しているミシマ社さん(東京・京都) だとか、100年後に残る本しか作らないんだと意気込んでいる鉄筆さん(福岡出身・兵庫) だとか、すぐに挙げられる。

 で、最近、橙書店さん(熊本) に、行った。
 ここはカフェ「ORANGE」に隣接していて、同じ店主がやっている。実はカフェの方がずっと先にあった。お隣を書店にしたのは割と最近で、最近といったって2007年なんだけど、カフェとは雰囲気も色合いも随分と違う。違うのに、カフェと大きな穴(!) で繋がっていて、店主の田尻さんは、書店からお会計に呼ばれるとカフェのカウンターからこの穴を通って顔を出し、会計をしてくれる。なんとも不思議で楽しいお店だ。

 すこぶる、居心地のいい空間がカフェにも書店にも広がっていて、ああいいなあ、いいなあ、と思いながら、真っ白い綺麗な猫の声をBGMにして本を読み、コーヒーを飲んだりする。
 カフェには雑貨も随分とおいてあるし、あちらこちらに絵本も散らばっている。すごく、良い。あ、隣のテーブルに「100万回生きたねこ」がある。

 この良さって何かと言ったら、田尻さんが「自分のすきなものしか置かない」を徹底しているってことだ。
 カフェも、書店も、同じ。
 書店には、だからたぶん、そのへんの本屋さんにはない本が多いし、流行の本もめったに並ばない。
 翻訳本が、すごく目につく。タブッキがあり、カルヴィーノがあり、ガタリがあって、ソンタグがある。いいラインナップだなあ、と惚れぼれする。もちろん、もっとある。翻訳者、というなら柴田元幸さんの名前がちょっと目について、ここは熊本だから、熊本の本も、ある。水俣の写真集があり、阿蘇の風景があり、そういうふうに、ぐるっと取り囲まれているのに、威圧感も雑さもなく、きちんとして、適度に力が抜けている。

 加地は、実は翻訳本というものをそうたくさんは読まずに生きてきた。
 翻訳というのは不可能を可能にしようとする試みだ、と加地は思っていて、たぶん、翻訳者もみんなそう思っている。彼らは神の所業に挑んでいるのであって、だって本当なら、同じ言葉を使っていてさえ伝わらないかもしれないものを、違う言語にしようなんてことは、どうやったってとてつもないことだ。
 だから、本当に神に近づくことを試みた信頼できる翻訳でなければ、読むのは原作に失礼な気が、していた。今も、している。
 全身全霊で翻訳に魂を賭けているひとたちの翻訳は、もうそのひとへの敬意で読める、と思う。思うけど、加地はどうにもそういうことに疎くて、何なら読んでも良いのか見極められないから、やめておこうと、そういう心理が働いていた。

 そんなわけで、加地が翻訳本を読むのは信頼する人が信頼できると勧めてくれたものばかりだ。
 普通に書店に行ったって、どれもこれもおすすめと書いてあるだけで、ちっともわからないから仕方がない。

 前置きが長くなった。

 橙書店は。
 どの本を手にとっても買って間違いない、と思えた。
 田尻さんがすきなものしか置いていないのだ。田尻さんの作り上げた空間はとても居心地がよくて、こういうものをすきで、こういう本を並べている人がすきな本なら、残りだって全部すてきに決まっていた。

 ああ、本屋さんってこうであって欲しい、と思う。
 大きな、なんでも揃っている本屋さんには、それはそれですごく良さがあって、でも、橙書店のような、そのひとを切り売りするみたいな本屋さんが、もっとあってほしい。
 本がすきなひとなら、きっと飛行機に乗ってだって行きたい書店が、ここに、ある。

 加地もいつか、そういう本屋をやりたいと、実は思っている。
 神話からあやしげなオカルトからノンフィクションからミステリからSFから、無節操に読んできた加地の好きな本だけが並ぶ書店だ。

 同じように、出版社も、大きな出版社から、自分の信念だけで出している小さな出版社まで、バラエティに富んでいた方が絶対に面白いに決まっていて、いま、少しずつそうなっていっている、という気がしている。

 さて、では伽鹿舎は何をするの、と言われたら。
 すきなものだけを並べる文芸誌をやっていたいし、いずれそういうものだけを本にしていきたい。
 伽鹿がすすめているんだから、いいに決まってるよ、と思ってもらえる存在に、なりたい。
 で、それってもうずっと読み継がれた古典もベストセラーも隠れた名作も当然なんだけど、なにより、誰もしらない、そこのあなたの作品を同列に扱うことから、やっていきたいのだ。

 まず、伽鹿はどんな人の作品も読む、ということを掲げている。
 だって今、作家になろうとするひとは、新人賞に出す以外にほとんど方法がない。
 そうでなかったら、仕事で第一人者になって目をつけてもらうしかない。
 だけど。
 仕事にしたいけど出来なくて、でも良いものを書いているひとが、新人賞じゃないと読んでもらえなくて、それも何百何千の一つとして、下読みさんに読まれてもう没にされてしまうのは、なんだか腑に落ちないのだ。
 たった一言のアドバイスで、作品が飛躍的によくなる、なんてことは良くあって、加地はそれをいくつも目の当たりにしてきた。そのたった一言をもしかしたら差し出してあげられるかもしれない存在に、伽鹿はなりたい。

 『片隅』には、そうして集まった作品を掲載していこうと思っている。
 あなたの創り出すものが、たったひとりの誰かの心に響くお手伝いを、したいと思っている。

 好きなものだけ並んでいる、書店はまだ出来ないから、まずは『片隅』から。
 今日も明日も明後日も、あたらしい作品、お待ちしています。

※写真はカフェ「ORANGE」 モデルは白玉@白猫