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伽鹿旅 ~香港~

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 【空色の地図】を連載している久路先生が言った。
「香港に行かない?」
 そもそも伽鹿舎の加地という人間は英語がからっきし出来ない。日本語もおぼつかないのに外国語が出来るわけがないのである。従って、口癖は長らく「日本から絶対でない!」であった。
 ところが人生何があるかわからない。初海外はペルーだった。現地でガイドをしてくれたナイスガイが腹を抱えて笑った。初めてで地球の裏に来るやつは珍しいよ! 全くだよと加地も思った。それでどうでもいい度胸がついたのかもしれない。久路先生が「ロンドン行かない?」と言ったとき、一も二もなく飛びついた。更にカンボジアに行き、続けてまたもや久路先生に誘われて台湾に行ったあとの、この誘いだった。加地は即答した。
「いいね!!!」
「香港もごはん美味しいから、人数がいた方が楽しめるんだよね」
「ですよね!」
 前回の台湾でも伽鹿舎のシステム担当、木間は同行していた。有無を言わさず即座に木間が巻き込まれる。さらに、久路先生は言った。
「私が関西から、木間くん出発はタイミング的に絶対東京だよね、加地さんが九州だし、うーん、現地集合にしよう!」
 了解! と軽快に答えながら、加地は更にそこにいたヤマさんを巻き込んだ。ヤマさん久しく海外行ってないっていいましたよね行きましょうさあ行こう行くぞパスポート取り直して来い! 何故かヤマさんはノリがいい。そうか、香港か、とこくりと頷き、パスポートをとった。何がヤマさんの心を動かしたのかはよくわからない。ただ単に、本当にただ単に加地は一人で福岡に行って更に台湾に飛び、そこから香港に飛ぶ、という行程に退屈するのが嫌だっただけなのであった。そう、関西や成田からは直行だが、福岡からは途中台北に降りて中継するのである。お陰で一番香港に近いというのに、一番時間が掛かるのが九州組なのである。ヤマさんありがとう、マジいいんすか! ヤマさんはやっぱり、こくりと頷いた。いーよー、美味しそうだし。旅行を美味しそうで決める人も珍しいが、まあいい。持つべきものは友である。
 
 そんなわけで、現地集合伽鹿舎の旅は決定した。旅程は5月の中旬のことである。
「は? あ、そうなの。へえ。行ってらっしゃい。素材写真とってこいよ」
 WEBデザイナーのAkatukiさんがそう言った。軽やかに頷きながら、加地は微笑んだ。
「更新、どうにかしておいてくれよな」
 瞬間、表情が消えたAkatukiさんに、木間が厳かに親指を立てた。
 
 さて、旅行といえば、大抵は天気の心配をする。
 今回も例外ではなかった。出発前。天気図を見る限り、どう考えてもどうやっても碌でもなかった。目的地は香港である。アジアだ、南だ。
「……台風、なんだけど」
 久路先生が恐る恐るそう言った。そうだねえ、と言っただけでヤマさんは特に何も考えている気配がなかった。木間はマジっすねぇと言い、加地は根拠ゼロで「大丈夫じゃね?」と安請け合いした。
 まあ大抵加地には根拠はない。根拠はないのだが、何しろとにかく、加地はあまり雨に濡れる経験をしたことがない。勿論雨は降る。降るが加地はたいして濡れないのである。屋根のある場所にいたり、小雨だったり、傘があったり、そうでなければ予報を覆して晴れる。
「うーん、無事に行って帰って来たいね」
 久路先生も、なんだかんだ、中止しようなどという考えはないのだった。
 台風の進路、台湾直撃コース。実に我々が帰国するというその日が、日本再接近を予想される天気図であった。
 
(というわけで、このたびの模様をダイジェストかどうか既に記憶も朧なあることないことないことないこと交えてお送りしたい【伽鹿旅】不定期に適当に次回からスタート!)