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希望の古本屋 5 岩尾晋作

20151017

 東京古書会館に仕入れに行ってきた。
 東京は半年ぶりで、成田空港に第3ターミナルができて、吉祥寺にキラリナができていた。
 都内に着いたその足でまず奥沢のd&depertment Tokyoにお邪魔した。
 1階のカフェから2階の家具や生活雑貨の物販ゾーンにいたるまでものすごい人の多さだった。
 日曜だから混むのだろうとは思っていたが、想像以上で驚いた。
 考えてみると、訪問の3日前にテレ東の「カンブリア宮殿」で、dの創設者、現会長のナガオカケンメイ氏がゲストとして招かれ、番組で会社の取り組みを紹介していたのだから、その効果も大きかったのだろう。
 テレビの効果は一過性のものになりやすいのだが、新しくdの取り組みを知った人が、ひとりでも多くdと長い付き合いをするようになったら素晴らしいことだなと思った。
 d&depertment Tokyoで、私にとって特筆すべきことは、long life design books と名づけられた書店が1階カフェの中にできていたことだ。
 一角を期間限定カモシカ書店コーナーになっていることは割とどうでもよくて、面白いのはlong life design booksが大手取次と取引をし、新刊本(新発売ということではなく新品の本と言う意味) を入荷しているということだ。
 本屋としての面積はおそらく15坪ほどで、棚は低いので恐らく多くても3千冊もない書店なのだが、この規模で大手取次から新刊本を自由に仕入れられるという例はあまりないのではないだろうか。
 もちろん小さな本コーナーならコンビニやキオスクなどいくらでもあるのだが、雑誌や新刊(新発売の意味) ではなく、既刊の中からセレクトして並べる、元々は他業種のお店で、取次と取引しているというのはやはり珍しい。
 他にすぐ思いつくのはアミュプラザおおいたシティのアーバンリサーチ大分店だ。
 同様の取り組みで面白い本のセレクトをしているが、回転式の棚が一本、という限られたスペースでやはり書店というには規模が小さい。
 アーバンリサーチの場合は本社で一括して仕入れているとのことだ。
 それにしても、実はこういう展開をしてみたいお店や経営者は多いのではないだろうか。
 このへんは内沼晋太郎氏も以前から言っていることだが、いろんな場所で現実に現れ始めているということだ。
 おそらく今後も方々でチャレンジが起きるだろう。
(そしてまたこのことは書きたいが、今後このような本屋以外の本屋が増えていく過程で、書店と書店員が再評価されるだろう。本は、実は雑貨としては扱えない手ごわいやつで、まるで神経質な動物みたいに、それを扱う人の強い愛情を常に必要とするからだ)

 その晩は西荻で食事をした。
 西荻に私が住んだのは2001年から2012年だったと思うが、最初はあまりぱっとしない町だった。
 どちらかというと私が生まれ育った大分市中心部のほうが都会的な雰囲気があり、上京したのにむしろ郊外に暮らすことになったと空しい気持ちになる夜もあった。
 この10年で西荻は激変した。
 激変というか、急発展というのいうほうが正しいのだろう。
 さらに私が去ってからの3年で駅前にマンションが建ち並び、路面のカフェやレストラン、雑貨屋など、小さなお店が集中してできていた。
 どこも洗練され、賑わっていた。
 どこも賑わっている、というのはすごいことだ。
 東京は人が多く、その意味で圧倒的に豊かである。
 人が多いと当然循環するお金が多い。
 しかも毎年大量の若者が学生としてやってくるのだからいつも新鮮な空気があるし、醸成される文化も当然濃厚なものになるだろう。
 東京に行って物事に気づいたり再認識したりするというのはやはり空しい。
 それ自体が私にとっては絶望的な気分になる。
 東京で気づくことになぜ大分で気づくことができないのだろうか。
 書店としては先駆的な事例が乏しいし、路面のお店が急発展するような通りもまた皆無だ。
 大分の現実としては大型書店がいつものやり方で(せっかく駅ビルに新しくできたのに!) 出店し、街並は空き店舗対策のために補助金によって個人店の新規出店がちらほらとみられる程度で、そのほとんどが飲み屋である。
 この圧倒的な違いについてもっと絶望し、最も適切な態度で絶望しなければならないと私は思っている。
 状況は想像を絶して暗い。だが出口はきっとある。
 出口があると言い続けてやれることをやって、悪を為すほどの覚悟で開墾していく覚悟は、正確な絶望によって初めて作られるからだ。

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岩尾晋作(Iwao Shinsaku)

カモシカ書店店主
1982年生 大分県大分市出身