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希望の古本屋 2 岩尾晋作

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本屋の大地 1

 
 全盛期は過ぎたようだがそれでもまだカトマンズはバックパッカーの多い都市だ。
 お土産屋だけではなくアウトドア用品の店が立ち並び、ゲストハウスと古本屋を数多く有している町でもある。
 
 私がカトマンズを訪れたのは3年前の雨季で、エロティックな装飾で有名な寺院や少女の現人神クマリを見たりの観光をしながらいくつものゲストハウスと本屋を回った。(今年の地震の影響は現状ではわからない。)
 カトマンズからバスで7時間ほどでポカラという大きな湖を囲む美しい町に着くのだが、そこも同様に安宿と本屋がある。
 ポカラからはABC(アンナプルナ・ベースキャンプ) といわれる登山好きのあこがれの標高4000メートル越えのベースキャンプがあり、ABCまでいかなくとも標高3000メートルぐらいまではガイドを雇えば比較的簡単にトレッキングできる。
 たしか4泊ぐらいしながらアンナプルナ周辺の村や山を回ったのだが、なんと山の上にもいくつかの本屋が存在していたのである。
 カトマンズもポカラも山上も置いている本のほとんどは英語の本で、ロンリープラネッツみたいな旅行ガイド本から暇つぶしの小説が多い。あとは山岳マップがたくさんある。
 つまり旅人が持ってきた本を置いていったり売ったりしながら棚が出来ていき、別の旅人が必要な本を買っていくのだろう。
 私は本のこういうあり方に心が踊るのである。
 まるでニーチェの語る友情のように、一冊の本の遊星的な軌道に、天文学的な確率で出会うということ。
 おそらく、私の一生の中では軌を一にすることはもうないであろう数百数千の棚に並んだ惑星たちを、愛おしく思うのである。
 
 話は変わるようだが、私はいま大分県大分市に住み、いまいる町がなるべく自分の住みたいような町になればいいなと身勝手なことを真剣に考えている。
 住みたい町とは自分の経験でワクワクしながら歩いた町ということで、一応のモデルは東京のJR西荻窪駅周辺、南仏アヴィニョン、大分の湯布院の一部、がすぐにあげられる。
 共通するのは大都市ではないこと、妖しさがあること、美意識があること。
 わざわざ行きたくなるような町に住むのは最高の贅沢のひとつだと思っている。
 我が町大分はどうかというと、まあもっともっと妖しくなればいいと思う。
 大都市とは言わなくとも充分な都市機能はあるし、少なくとも不便はまったくない。
 美意識は主観的なものも含まれるので慎重に扱わねばならないが、まあ普通に頑張っているのではないかというところだろうか。
 私ならどうするかというと、まず商店街に無限にリフレインする商業メッセージをすべて廃止して、イベントもすべて廃止して、商店街に温泉の水路を引いて、緑を植えて、静かな中心部を作る。
 一本路地に入ればわけのわからないお店がわんちゃかあって、安宿がいくつかあって、外国人が遊びに来ている。
 治安上の問題も出てくるのだろうが、それについてはもう少し勉強して書きたい。
 この町には学生が必要だ。それにはどうしたらいいかわからない。近くの小学校がひとつ廃校になる予定だから大分大学のキャンパスになればいいのに、とは思う。
 変な人、学生、よそもの、外国人。こういう景色が好きだ。
 それは今のカモシカ書店でもある。
 その土地の盛衰と一蓮托生の関係になるのに最もシンプルな方法のひとつに今年気がついた。
 観光業に手を出せばいいのである。
 いやがおうにも地域の経済とともに自分にも利害が生じ、腹を括るだろう。
 だから私は本屋は観光業になりうるという話をしたい。
 事実、京都にけいぶんしゃ一乗寺店を訪ねに行く人は多いだろうし、鳥取に今井書店の本の学校、定有堂書店を目的に訪れる人も多いだろう。
 熊本に長崎書店、福岡にブックスキューブリック。
 私は台湾にVVGを見に行こうと画策中である。
 これら一際光彩を放つ本屋たちが意味するのは、本屋に対する期待と不安なのだと思っている。
 このままで大丈夫? でも希望もあるよね、という。
 まあ取次を使う新刊書店なら、どこに行っても原則的には同じものが同じ価格で手に入るのだが、私は自分の本棚を見てこの本はどこで買ったかほとんどすべて明確に覚えている。
 だから同じではないのだ、決して。
 もちろん本屋としての付加価値がそういう思い出だけに頼るということだけでは不充分であるが、それにしても何か大きなヒントであることは間違いないだろう。(衰退産業として肩を並べる映画館にも同じことがいえる)
 まあ当たり前のことばかり書き連ねているが、各都市で少なくとも一つの本屋がランドマーク的に屹立することは共通の目標にできるのではないだろうか。
 それは観光業的なセンスが必要とされるのである。
 私が大分に帰った理由のひとりとして湯布院の中谷健太郎氏がいるが、中谷氏は「観光はワクワク製造業なのだ」とどこかで言っていた。
 本屋も一部、あるいはそれ以上にワクワク製造業であることが期待されている。
 
(続)

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岩尾晋作(Iwao Shinsaku)

カモシカ書店店主
1982年生 大分県大分市出身