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空色の地図
~台湾編~12
かき氷
久路

20160421

 沖縄を僅か南西へ下った場所に位置する台湾の夏は、暑い。それはもう、容赦なく暑い。陽の高いあいだは、日傘やサングラス無しに歩くのは無謀とも言うべきで、とりわけ暑さに弱い私などは、冷房の効いた店から漏れ出る涼風を僅かでも浴びようと軒先ぎりぎりを歩いたりもする。湿気と陽射しと、車やバイクの排気ガス。道を歩いているとそれらが一斉に熱風となって襲ってくるのだから、少しくらい冷房のおこぼれをもらったとしても、バチは当たらないだろう。
 日が暮れてからは、肌を突き刺すような陽射しはないものの、アスファルトから立ち上る湿気と熱は日中以上だと感じる。それでも幾分か歩きやすいのは事実で、暗くなった頃を見計らって夜市へ繰り出すことにした。道の両脇にずらりと並んだ屋台をひやかしながらそぞろに歩いていると、「雪花冰」という看板が目に飛び込んだ。
 雪花に冰とはどういう意味だろうか、と近づいてみると、色とりどりのフルーツをのせたかき氷の写真があった。スイカにマンゴー、パイナップルなどの南国フルーツもあれば、小豆やタピオカといったトッピングもある。そう言えば「冰」とは「氷」の意だ。雪花はさて、雪片のことだと思うが、何はともあれ蒸し暑い上に人混みで更に熱気の増した夜市、氷を食べて涼を取るのは良いアイデアだと、屋台の軒先に並べられたテーブル代わりの長机に友人と向かい合って陣取った。
 すぐさま店の人が注文をとりにやってきた。迷うことなくマンゴーがどっさり盛られた写真を指さす。店員がひとさし指を立てて「ひとつ?」と言うので、ひとつ、と日本語で答えた。大きく頷いた店員が、程なくしてかき氷を運んできた。
 目にした瞬間、わあ、と二人思わず声が出る。カレー皿くらいの大きな皿に、どっさりと盛られたかき氷。さらにその上へこぼれ落ちんばかりに積み上げられたマンゴー。写真のまま、いや、実物の迫力はそれ以上だ。普段食べているかき氷の倍以上のボリュームで、わあ、という声は、感嘆も勿論だがこの大きさを果たして食べきれるかという不安も含んでいた。
 二つ添えられたスプーンをそれぞれに手に取り、かき氷の山に差し込んでみる。ふわ、とまるで上等な雪のような、手応えとも言えないそれに、友人と目が合う。驚きはそれだけではなかった。マンゴーソースと練乳のかかった氷は、匙で口に運んだとたん、舌の上で消えたのだ。さわやかな甘さと冷たさだけを残して解けて無くなった氷は、文字通り「雪花」だった。その不思議な食感の虜になり、友人と争うように氷の、いや雪の山へとスプーンを差し込んでは口に運ぶ。マンゴーの甘さと酸味もさることながら、雪花冰自体も杏仁ミルクの味がしてほの甘く美味しい。こんなかき氷がこの世にあったのか。
 皿はあっという間にカラになった。ひと皿ずつでも良かったねと笑いあい、友人と席を立つ。かき氷で涼んだ私達の足取りは、さっきよりも数段軽くなっていた。
 その後も台湾へ行くたびに色んな店でかき氷を食べ歩くようになった。だが涼しい店内で食べるものよりも、うだるような暑さの中屋台でかき込む雪花冰が、やはり一番美味しいと思うのだ。