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空色の地図
~ロンドン編~11
アフタヌーンティー
久路

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 黄金色のスコーンを手にした瞬間、その繊細な軽さに思わず友人と顔を見合わせた。しっとりとした温かさを確かめつつ、手元の皿で二つに割る。ふわり、たちのぼる小麦の香りに、いやが上にも期待は膨らんだ。
 それまで何度かロンドンを訪れている私だったが、「アフタヌーンティー」をいただくのは、これが初めてだった。金で縁取られた皿の上にはそれぞれフィンガーサンドにスコーン、フルーツやチョコレートを使った可愛らしいケーキが、本で見たとおりに並んでいる。甘いものが好きで、三段重ねのティースタンドに胸を躍らせない人なんて、果たしているのだろうか。
 予約をしていなかったが、あのキャサリン妃も泊まったというそのホテルでは、運良く空いていたテーブルを用意してもらうことができた。案内されたティーサロンは落ち着いた雰囲気で、豪奢なシャンデリアや暖炉、ヴィクトリア調の壁紙が私達を迎えた。隣のソファでは、年配のご夫婦がゆったりと記念日のプレートを囲んでいる。
 オマール海老のスターターも美味しかったけれど、やはりアフタヌーンティーのお楽しみはスコーンだろう。フィンガーサンドから食べるのが通例らしいのだが、私は温かいスコーンからいただくことにする。まあるく盛られたクロテッドクリームをたっぷりと掬い、半分に割ったスコーンに塗る、というよりものせた。こんもりとしたクリームのとなりに、ジャムをたっぷり添えれば、準備完了だ。
 この際お行儀は気にせず、大きな口をあけてがぶりとひとくち。控えめな甘さの軽い生地に、濃厚なクリームが華を添える。ジャムの甘さがほどよいバランスとなり、それらが一度に押し寄せる幸せと言ったら! スコーンという素朴な菓子は、素朴さゆえに店によって味が異なるが、断言してもいい。今まで食べたどのスコーンよりも、好きな味だ。
 伝統的なキュウリのサンドウィッチを抓んで甘味をリセットすると、次に手を伸ばすべきは、頂上の皿に飾られた美しいケーキだろう。バラの花びらを象ったクリームや帽子の形のケーキなど、心躍るデザインのそれらは、手の上で崩れてしまいそうなほどに華奢だった。そして何より見た目以上に、美味しい。
 サンドウィッチとケーキとを交互につまみながら、ミルクをたっぷり入れたお茶を飲む。かつて英国では朝食と遅めの夕食しか摂る習慣がなかったそうだ。そのため空腹を紛らわし、かつ社交場として上流階級ではじまったとされるアフタヌーンティー。それにならって、この日は昼食を摂らずに来たのだが、美味しいお茶と菓子でほどなくお腹がいっぱいになってしまった。だが心配することなかれ。残ったスコーンは、ドギーバッグに入れて持たせてもらえるのだ。ふと見ると隣の老夫婦は、健啖ぶりを発揮しスコーンのお代わりをしていた。英国人の胃袋、恐るべし。
 手渡されたドギーバッグは、まだほんのり温かかった。今夜の観劇が終わった後にいただくことにしよう。甘い香りに包まれて歩くロンドンの街並みはひときわ鮮やに見えた。

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久路 (curo)大阪生まれ兵庫育ち。

美味しい食べ物に出会うと生きてて良かったとしみじみするこの頃。