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空色の地図
~ロンドン編~6
タクシー
久路

londontaxi

『間に合うかな』内心のドキドキを友人に悟られないよう、急ぎ足で階段をのぼる。薄暗い地下鉄の通路を抜けると、地上の光が見えた。明るさに慣れない目で辺りを見渡す。ツアーの時間まであと20分。すぐにタクシーを捕まえなくては、間に合わない。
 集合場所を勘違いしていた私は、うっかりと全く違う駅で列車を降りてしまっていた。再び地下鉄で二駅戻り、ベイカールーラインへ乗り換えるべきか。いや、いくらロンドンの地下鉄が便利だとはいえ、通路は長くエスカレーターやエレベータも少ない。乗り換えにかかる時間を日本と同じように考えていると、痛い目を見るのだ。友人には初めてのロンドンをがっかりした思い出にしてほしくはない。ここは多少お金はかかるがタクシーをひろおう。
 ロンドンのタクシーは通称「ブラックキャブ」の通り、元は黒塗りのオースチンだ。コロンと丸みを帯びた外観と、正面に掲げる「TAXI」のオレンジランプ。21世紀になった今もなおクラシカルな雰囲気をたたえるその姿は、ロンドンの街にとても似合っている。近頃はラッピングタクシーが増え、カラフルな広告をまとったものが多いが、伝統的な漆黒のタクシーに乗ると少し嬉しくなってしまう。
 道路に身を乗り出すようにしていると、すぐにオレンジランプを光らせたタクシーが見つかった。手を挙げて呼び止め、2人で後部座席に乗り込む。
 行き先の地図を見せると、運転手の男性は大きく頷いた。資格を取るまでに三年かかるとも言われるブラックキャブの運転手は、皆ロンドンの街並みに精通している。「10時半までに行かなくちゃいけないんだけど…」おそるおそる切り出した私に、「あと15分だろ?大丈夫さ」との頼もしい返事。そこでようやくほっとした私は、革張りのシートにどっかりと背中を預けた。
 オースチンの車内は、向かい合わせで5人が座れるようになっている。後ろ向きのシート2席は普段折りたたまれているため、足下はとても広く乗り降りも快適だ。スーツケースも4つくらいは楽に積めるだろう。
 私達を乗せたオースチンは、複雑に道路が交差するロンドンの街並みを滑るようにして駆け抜ける。やがて目的地に到着した時間は10時27分。運転手の言うとおり無事間に合った。
「有り難う、助かりました」御礼と共にチップを手渡した私に、「どういたしまして」と茶目っ気たっぷりのウィンクで返す運転手。ロンドンのタクシー「ブラックキャブ」は、かように便利で頼もしい乗り物だ。

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久路 (curo)大阪生まれ兵庫育ち。

美味しい食べ物に出会うと生きてて良かったとしみじみするこの頃。