F T R @
九州発! 日本中が楽しくなるWEB文芸誌。美術館・博物館のイベント情報、気になる本や本屋さん、読みたい物語がきっと見付かります

空色の地図
~ロンドン編~5
バラマーケット
久路

08borough

 ロンドンでおいしいものを食べるにはどうすればいい? と尋ねられる事がある。必ず「バラマーケットに行くといいよ」と答える。木曜日から土曜日のみの営業だが、もしも日程があえば是非、と勧めるのだ。
 250年以上もの歴史を持つこのマーケットは、地下鉄に乗りロンドンブリッジ駅を降りてすぐの場所にある。バラハイストリートを道なりに曲がれば、緑色の屋根に覆われた市場を見付けることもできるが、私はサザワーク大聖堂横の、細い路地を入ることが多い。ここに美味しい屋台(ストール) があるからだ。
 12時を過ぎると行列のできるこの屋台も、開店直後ならばじっくりと見る事が出来る。大きな鉄板には肉やソーセージが所狭しと並べられ、香ばしいにおいに誘われてふらふらと近づくと、すかさず「おひとつどう? うちのは美味いよ」と声がかかる。ひとつください、と言うと「ひとつだけでいいの?」と茶目っ気たっぷりの店員さん。答えるようにお腹がぐうと鳴るがここで譲るわけにはいかない。「ひとつだけ」とつつましく答えて小さな紙皿を受け取るのが正解だ。
 路地を抜けてサザワーク大聖堂の壁沿いに曲がると、屋台のひしめき合うマーケットに出る。開店してすぐだというのに、観光客や地元の人ですでに混雑していた。手にしたソーセージを囓りながら、のんびりと歩く。
 手作りの焼き菓子やケーキ、オーガニックの蜂蜜や瓶詰めのピクルス。もちろん魚や肉、新鮮な野菜の屋台も多い。だが私の目当てはローストビーフをたっぷり挟んだサンドイッチだ。
 文字通り山と積み上げられたチョコレートの脇をすり抜け、5人ほどの列に並んだ。
 ロンドン名物ソルトビーフサンドも捨てがたいが、手にしたたるほどのグレイビーソースと、盛大にはみ出したローストビーフのサンドイッチを受け取る客の姿を見ると、もう他の選択肢はなかった。
 順序よく並んだ列がすすみ、私の番がやってくる。素早くパンをカットする青年に「ローストビーフサンドイッチひとつ」と告げると、彼は無造作にローストビーフをパンに押し込んだ。肉の欠片が落ちるが、気にした風もない。ぎゅうぎゅうと音がしそうなほど詰め込まれた肉の塊に、これまたたっぷりとソースをかける。クレソンとホースラディッシュをのせて紙ナプキンで包むとできあがり。手早さに感心しながら代金を支払うと、もう彼は次の客の注文をとっていた。
 屋台の傍らに設えられたテーブルで、がぶりとひとくち。口いっぱいにローストビーフを頬張るこの瞬間、つかの間のロンドナーの気分を味わう事ができるのだ。

curo_profile_2

久路 (curo)大阪生まれ兵庫育ち。

美味しい食べ物に出会うと生きてて良かったとしみじみするこの頃。