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空色の地図
~台湾編~3
スーパーマーケット
久路

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 ドラゴンフルーツにライチ、パイナップルやスイカ。台湾のスーパーは南国フルーツの宝庫だ。とりわけマンゴーに目がない私は、夏場に訪れる台湾でフルーツを買い込むのがお決まりだ。
 日本では高価なマンゴーも、ここ台湾ではびっくりするほど安価で手に入れられる。スーパーに入ってカゴを手にすると、私は一目散に果物売り場へ向かった。
 台湾愛文芒果(アップルマンゴー) が盛られた篭の値札には「79元(日本円で300円程度)」と書かれている。ひとつではない。ふたつでこの値段だ。安い。日本での価格を考えると、信じられないくらいに安い。オレンジ色の皮がほのかに赤く色づいて、表面は粉を吹いたように白いが、これは「ブルーム」と言って甘い証拠だ。
 マンゴーの濃厚な香りがただよう中、私は品定めを始めた。
 地元の人などはおそらくまだ熟れ切っていないものを買いおいて、熟してから食べるのだろうが、私はこれからホテルに持ち帰りすぐに食べるつもりだ。
「美味しいマンゴーをおなかいっぱい食べる」という夢が、ここ台湾においては比較的容易に実現する。
 完熟のものを探すべく、ひとつひとつを取り上げては裏返し、マンゴーの「おしり」を確認する。蜜がしみ出していて、持つと少し手がべたべたするくらいがちょうど食べ頃だ。
 甘い香りが強く、指がべたつきずしりと重みを伝えてくるマンゴーを選んで、カゴに入れる。
 本当なら5つくらい買って食べたい所だが、ここ台湾で美味しいのは、マンゴーだけではない。今晩の食事の為にも胃袋のスペースを空けておかなくては。なに、また明日も買いに来ればいいだけだ。ゆるむ頬を引き締めて、私は次の棚へ足を向けた。
 インスタント麺の並ぶ棚はカラフルだった。オレンジに緑、赤。キッチュなデザインのキャラクタが描かれたパッケージを手に取り、私は表面の漢字に目を走らせる。言葉は分からずとも、字を見ればなんの味かおよその見当がつく。牛肉麺や排骨味。日本では見たことのない字面に心が躍る。
 家に帰って作った時、独特の香辛料が台所にたちこめるのだろう。その香りに包まれて台湾を思う瞬間を、私は「おまけの旅」と勝手に呼んでいる。
 どんな旅でも、終わりに近づくにつれ、物寂しいようなじりじりとした思いにとらわれるのは、きっと誰も同じだ。帰国の前日、スーツケースに荷物を詰めながら、再び訪れる「日常」の影に少しだけため息をつく。でもそんな時には「おまけの旅」があるさ、と自分に言い聞かせるのだ。「おまけの旅」の中で私は、このスーパーの棚で逡巡した事を思い出すだろう。マンゴーの品定めをしたこともまた、鮮やかによみがえる。そうしてまた次の旅行の計画をたてればいい。
 次の旅のまたその次も。きっと私はこうしてスーパーの棚の前にいるのだろう。

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久路 (curo)大阪生まれ兵庫育ち。

美味しい食べ物に出会うと生きてて良かったとしみじみするこの頃。