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空色の地図
~ロンドン編~2
地下鉄
久路

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 世界で初めての地下鉄が運営された頃、日本はまだ江戸時代だった。新撰組が結成された年だ、と書けば、ロンドンの地下鉄の歴史を少しは感じてもらえるだろうか。
 いや、そんなことを知らなくても、実際に乗ってみればいい。
 ロンドンの地下鉄は、ひどく狭い。幅も狭いように思うし、なによりも天井が低い。時折、頭を低くして地下鉄に乗車する英国紳士、なんていう光景を目にするのも珍しい事ではないのだから。
 ロンドンの地下鉄車内が狭いのには、理由がある。当時の技術では、これ以上おおきな「穴」を掘ることが困難だったというのだ。不可能ではないが、コストがかかりすぎる。「シールド」と呼ばれる円筒形の掘削機を使い掘り進んだ結果、その形状から「チューブ」と呼ばれるロンドンの地下鉄は完成した。
 網目のように張り巡らされた地下鉄は、ロンドナーにとって無くてはならないだけでなく、私のような観光客にも便利な交通手段だ。観光地をめぐり、地下鉄でホテルに戻る。大英博物館もロンドンブリッジも、バッキンガム宮殿だって地下鉄を使えばすぐだ。
 博物館の帰り、テムズ川沿いを散策しながら地下鉄の駅に向かう。鈍色の空からは今にも雨が降りそうだが、誰も傘なんて持っていない。
 幸いにも降り出す前に地下鉄の駅が見えた。良かった、と胸をなで下ろした時、入り口に柵が降りている事に気がついた。
「どうしたの?」
 通りすがりの英国人女性が、柵の前でうろうろしている私に話しかける。「この駅、日曜日は閉まっているのよ。隣の駅を使いなさい」
 泣き出しそうな空の下、棒になりかけた足を引きずって仕方なく私は歩き始めた。こんな事なら博物館のそばから、地下鉄に乗っておけば良かった。
 明けて月曜日、地下鉄は通勤客でごったがえしていた。狭い車内で、背の高い英国人の頭は天井にくっつきそうだ。
 窮屈そうに首を竦める紳士の姿に、ああ、ここはロンドンなのだと改めて感じるのだった。

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久路 (curo)大阪生まれ兵庫育ち。

美味しい食べ物に出会うと生きてて良かったとしみじみするこの頃。