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ハルムスを読もう! 第七回「奇術師ハルムス」

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奇術師ハルムス

 前回記したように、死後ハルムスは作品がアニメーション化されるなどして再評価を受けました。ロシア・アニメの情報を収集・データベース化しているサイトには、ハルムス作品を素材にしたアニメーションがおよそ二〇掲載されています。

Аниматор.ру

 
 また、『草上の朝食』などで知られる世界的に有名なエストニアのアニメーション監督プリート・パルンは、二〇一二年にハルムス作品集『ハリネズミとマヒワ』(エストニア語) の挿絵を手がけました。
 このように、ハルムスの詩や散文はアニメーション監督の関心を惹き、そして実際に多くの人たちの手で何度もアニメーション化されています。
 ハルムス研究者の中にも作家とアニメーションとの親和性の高さに注目した人がいます。ハルムス研究者としてロシアで恐らく最も著名なコブリンスキーは『ダニイル・ハルムス』という本の中で、『Ⅰ奇術』という詩に関しこう述べました。
 
 

 この詩は、人や物が奇妙な形でときに思いもよらないふうに組み合わさるため、人や物の外見が目まぐるしく変容する現代のクレイ・アニメを強く喚起させる。

 
 ハルムスの詩『Ⅰ奇術』は一九二七年五月という割と早い時期に書かれました。この頃のハルムスの創作には、既に活動のピークを終えていたロシア未来派の影響がまだまだ残っており、その詩は奇怪で難解なものが多いと言えます。試しに冒頭を訳してみましょう。
 

ぼくたちのいるところで 木の棒に
フロックコートを身に纏った一羽のカッコウが止まっている
真っ赤なハンカチーフを
鱗に覆われたその手が握りしめている
ぼくたちは皆お婆さんみたいに物憂げな面持ちで
あっけにとられながら 前方の
金色の腰かけを眺めている

 

 どうやら『Ⅰ奇術』は奇術(手品) が行われる様子を描いた詩のようです。事実、このあと不思議な光景が展開してゆきます。例えば、次のような。
 

ソフィヤ・パーヴロヴナはと言うと、きちんとした姿勢で
座っていた 後頭部を後ろに突き出すと
そこからツノと
一一四本のガラス瓶がにょきにょき生えてきた

 

 コブリンスキーの言うように、まさに「人や物の外見が目まぐるしく変容する」様子を見て取ることができるでしょう。こうした「変容」がクレイ・アニメの特色だとするならば、確かにこのハルムスの詩はクレイ・アニメとの親和性が高いとみなせそうです。
 ただ、あくまでそれは『Ⅰ奇術』という詩に限ってのことです。ハルムスの作品全体にまで敷衍できる話では(今のところ) ありません。そもそもこの詩がアニメーションを想起させるのは、奇術(手品) という題材がアニメーション向きだからです。
 偉大なアニメーション監督ノーマン・マクラレンは『アニメーション・ジャーナル』に次のような言葉を書き残しました。「アニメーションは「動く絵」の芸術ではなく、「絵の動き」の芸術である」。つまり、コマの上にあるもの(絵や人形など) が重要なのではなく、コマとコマの間の裂け目で起きることが重要なのであり、アニメーションとはその裂け目を操作する技術だというのです。
 したがって、コマとコマの間を操作するコマ撮りアニメーションは、コマを加減して通常の時間の連続性に変化を与えるので、行為の一瞬前と一瞬後の落差で人を驚かす手品と同様の効果を狙うことができます。
 興味深いことに、ハルムスは手品を愛好していたことがよく知られています。
 前出のコブリンスキーによれば、ハルムスはとりわけピンポン玉を使った手品を好んで披露していたようです。他にも彼はシャーロック・ホームズに扮するなど奇抜な服装や態度で人々をあっと言わせるのが好きでした(ちなみに「ハルムスХармс」という筆名は「ホームズХолмс」の変形だという説があります)。
 ハルムスはしばしば自分の作品でも人を驚かせました。〈予期せぬ結末〉や〈期待のはぐらかし〉は彼の常套手段です。例えばこんな作品があります。
 

けれども私がお話しようと思うのは、マリーナ・ペトローヴナと一緒に過ごしているときに起こった滑稽な出来事のことだ。それは全くもってありふれた出来事なのだが、しかしそれでいて滑稽なのである。なぜならば、マリーナ・ペトローヴナは私のおかげで掌みたいにすっかり禿げ上がったからである。それは次のようにして起こった。ある日私がマリーナ・ペトローヴナのもとへ行くと、彼女がドカン! 禿げてしまったというわけだ。これでおしまい。
『シンフォニー№2』(抜粋)

 

 こうして読者があっけに取られるような作品を彼はたくさん書いてきました。
 いまや私たちはこう言うことができます。ハルムスの作品は手品に似ており、そして手品がアニメーションと共通点を持っている以上、彼の作品は(クレイに限らず)アニメーションと親和性が高い、と。

sawatsuki

沢月尋(SAWATSUKI Hiro)

東京大学大学院。
ロシア語が読める児童文学愛好家を探しています。心当たりのある方はご連絡ください。
個人サイト「Kharms! Harms! Charms!」http://japonsko-russko.jimdo.com/
web連載「ロシア文学めぐり」https://i.crunchers.jp/s/54bc9e06ec11621c0702c7d2

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