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中年ファッションパンクス 最終回 五月メイ

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22 終わらない歌
 
 月の終わりには電気が停まるのが当たり前になっていた。気づけばレコード店でのバイトもクビになり、深夜コンビニのバイト。そんな生活も慣れたもので、携帯の充電とテレビの電源は外の自販機のから拝借し、食費は廃棄弁当でだいぶ浮いた。それだけ貧しい暮らしでもバンドの練習は毎週かかさず入り、たまのツアーには出かけて行った。本人たちもすでに気づいてはいるのだ。もうどうあがいたってこのバンドが売れないってことくらい。しかしすでに手遅れだった。まわりの同級生達は就職、結婚し子どもたちに未来を見ている。そうやって少しずつまわりが積み上げていく中、ケイスケ達はなにひとつ積み上げず、ハムスターが回し車をまわすよう同じところで延々と足踏みを続けていた。なにかきっかけがあればという淡い期待はまるで宝くじのごとく。すっかり腹の出て来た中年達は、わずかの給料で安酒をかっくらい今宵も古いロックを聴いて朝を待つ。
 そんなある夏の日、通りかかったゲームセンターの中に知った金髪の中年を見た。レースゲームの筐体に座り深く眠っているその男はヒロユキだった。かつて共にギターを鳴らし、十数年前にはテレビにも出ていたヒロユキもすっかり歳をとっていた。
「お客さん、プレイしないならどいてもらえませんか?」
 と、声をかけるとヒロユキは凄味をきかせ威嚇したが、それがケイスケだとわかると照れくさそうに笑顔を浮かべた。
「久しぶりだね。十年ぶりくらいか?」
「成人式以来だろ。十年じゃきかないな」
「まだバンドやってんの?」
「続けてるよ。大して売れちゃいないけど、年に数回ツアーに出るくらいには成長したぜ。ヒロユキもその感じだと続けてるんだろ?」
「こっちも中々渋い状況だけどね。来月には久々にアルバムもでるんだ」
「それは是非聴かせてもらいたいところだけど、ここじゃちっとやかましいな。外に出るか。どうせ時間あんだろ?」
 二人は微糖の缶コーヒーを買うと近所の公園へ移動した。子どもが遊ぶ平日昼の公園は少し気まずい感じがしたが、ケイスケには喫茶店やファミレスにいくような余裕すらなかった。「ほら」とヒロユキがイヤホンをさしだす。来月出るいう新譜だ。ポップでキャッチーなギターフレーズに女性ボーカルの歌声が聞こえる。どこにでもあるような歌謡曲をさらにB級にしたようなサウンドだ。ケイスケは一曲目の半分も聞くと
「なかなかよく録れてるんじゃない? 売れるといいな」
 と、録音を褒めた。
「売れると思う?」
 ヒロユキはすぐにそう返すと続いて
「正直もうなんだかわからないんだよ。自分がやってきた音楽も、売れる音楽も。何がかっこいいかも、かっこ悪いかもわかんなくなっちゃってさ。これだって自主で発売するんだけど、売れなかったら散々金かけて在庫の山さ。でもまったく売れる気がしないんだ。活動してるって自覚するために無理やりレコーディングした感じなんだ」
 と言って再生を停めた。
「でも、前にはテレビに出てたじゃん。結構稼いだんだろ?」
「あの一回だけ。あの一回で勘違いしちゃったんだな。音楽で食えるって思っちまったんだよ。お前はどうだい? ツアーに出たりしてっからって食えてるってわけじゃないだろ? まわりは持ち上げてくれるけどCDのセールスや集客が増えるわけでもない。気がつきゃ抜け毛も気になる歳になっちまったよ」
 そこには鏡に映った自分の姿があるようだった。
「じゃあ、いまは何してんだ?」
「コンビニバイトでなんとか生活してる。恥ずかしい話だが電気停められてな。家にいると暑くて仕方ないからこうやって外で涼んでるんだ」
 自分と同じ思いをしているだけなのにヒロユキの話を聞いていてケイスケはなんだか切なくなっていた。今までは自分を見つめずに来たから気づかなかったが、自身もこんなにしょぼくれた中年になってしまっていたのだ。
「ガスも電気も停められて、かろうじて水道だけは生きてるけど、こうやってライフラインが断たれていく様を見てると未来なんてとても見えない。もう普通に働くこともできない歳になっちまったし、結局これしかやることないんだなぁ」
 そういってヒロユキはギターを弾くそぶりをした。
「ヒロユキ! それってロックじゃん! オレらは他の誰もができないロックな生き方を選んだんだ。あのとき二人が得た衝動は間違いじゃないって! もっと胸を張ろうぜ! そうだ、これからスタジオに行こう。こんなときこそでかい音鳴らすんだよ。未来は無くても今があるじゃないか」
 そして二人はなけなしの金を出し合ってスタジオへ行った。
「お互い少しはうまくなったな」
「だけどそれだけだ」
 楽器を通じてでは無く直接言葉で語らった。
「未来は僕らの手の中にはなかったな」
「じゃあ、最後はこれで」
 そういってTHE BLUE HEARTSの「終わらない歌」をかき鳴らした。二十数年の時を経てプレイを共にしたパンクロッカー達は明日からまた違うバンドで迷走を続けていく。「パンクとは欲望に忠実なこと」だというならば彼らこそが本当のパンクロッカーなのかもしれない。例え今プレイしているこの曲が終わっても、彼らの歌は終わらない。
 

satukimei

五月メイ(SatsukiMei)1974.5.4

埼玉県川口市在住

maria

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