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中年ファッションパンクス 21 五月メイ

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21 ツアーファイナル
 
 意外にもSNAKEは地方からちょこちょことお呼びがかるようになった。ホームであるはずのVoltsでは相変わらずの閑古鳥だが、地方では十〜二十人の前で演奏することが多かった。三月に初めてのツアーに出てから年内さらに二回のツアーに出かけた。相変わらず西の方ばかり、声がかかるの決まったハコで同じメンツのライブだったが、それでも声がかかることが嬉しくて喜び勇んで地方へと足を運んだ。
「来年はさ、日本中もっと色んなところに行こうぜ。それでオレたちの音楽を少しでも聴いてもらおうよ」
 今年最後のツアー帰り、ハイエースの中でヨシオはそういった。
「そうですね。なんだか飛躍の年だったなぁ、今年は」
 とレンもまんざらでもなさそうだ。
「しかし、そうなってくると仕事との兼ね合いが難しくなってくるな。オレみたいにバイトなら問題ないだろうが、ヨシオはそうは行かないだろ?」
「なに、そうなったら仕事辞めるさ。今の仕事を一生続ける気なんざまったくないんだ。こういうチャンスの為にやってたんだから辞めてもなんにも惜しくない」
「おいおい、このハイエースはどうすんだ? 足だけは確保しておいてくれよ」
「いざとなったら中古を三人で買おうぜ。先行投資ってやつだ」
 とても三十過ぎた大人の会話とは思えないが、独身のおっさんたちは夢を見ていた。ちいさなツアーを繰り返しているうちに集客も増え、日本中に自分達の音楽が浸透していくと。
 年が明けるとヨシオは東北方面のツアーを決めてきた。今度は福島宮城に栃木だ。
「三月ってえと雪はあるのか?」
 心配そうにケイスケが問えば
「だいじょうぶ。スタッドレス履いてるからさ」
 と、ヨシオは応える。この用意周到さはさすがだ。
 東北方面のツアーはさすがに安ホテルに泊まることにした。ケイスケだけは最後まで車中泊を主張したが、万が一凍死したらどうするんだという話になるとしぶしぶホテル泊を承諾した。三月の残雪に興奮し、震えながらまわったツアーはやはり好評で「また来てくれよ」との声多数だった。こうなってくるとバンドは俄然調子づいてくる。西も北もまわったとなれば今度は九州か北海道だと欲がでてくる。夏の北海道なんて魅力的だの、九州は食物がうまいだのと東北ツアーの最中にも次の目的地の話題でもりあがる。そして帰宅する頃にはすっかり、今回のことなど頭の中から消え失せていた。ツアーが終わるとケイスケは抜け殻のようで、バイトに行ってもVoltsにいってもなんだか現実味がなく、空想の中にいるようだった。「次のツアーはいつだろう?」自分ではツアー先など探しもせずに、ヨシオ頼りで次を待った。
 気がつけば年に数回ツアーに出かけるようになっていた。いく先々での反応はなかなかいいものの、集客はあまり増えず自腹のツアーが三年ほど続いた。そのうちツアーにも刺激を感じなくなり、ただめんどうなだけになってきた。ツアーに行けば人気が出るわけでもなく、ただ無闇に金と時間を浪費していくだけ。ツアー中ホテルに泊まるなんてことは無くなった。節約の為に漫画喫茶、それもいつしか贅沢に感じ山岡家でラーメンを食べたついでシャワーを浴びて駐車場で眠るようになった。楽しかった打ち上げも金がかかるから徐々に出るのがめんどうになった。たまにメンバーが一人遅く車に帰ってくると扉を開ける音に腹が立った。長い時間一緒にいるメンバーとの会話はほとんどなくなり、ツアー先でもバラバラにすごすことが多くなった。ヨシオは地方の友達の家に泊まった。レンは漫画喫茶が多かった。ケイスケはいつも一人車で震えて眠った。
 三年目のツアーの終わりにヨシオは仕事を辞めた。三十半ばにして全員がフリーターになったSNAKEは新たなハイエースを買う為にツアーを控えた。三人でとはいえ安い時給で生活もままならないのに車を買うというのは大事だった。にもかかわらず、禁欲的な生活を送ることはできなかった。車を買う頃に、ケイスケのカードローンは限度額に達した。それでも中古のハイエースを手にいれた瞬間西へと旅立つことにした。メンバーとの会話は相変わらず少なかったが、三人とも浮き足立っていた。ツアーの途中、ケイスケは電気代の支払いをしばらくしていないことに気がついた。
「なあ、電気止められたどうなるんだ?」
 ふと、車内で話題にしてみる。
「そうだな、まず帰ったらテレビ見れないよな。あと、携帯が充電できない」
 当たり前のことをさも新しい発見のようにヨシオが言う。
「携帯は電池式の充電器あるからなんとかなるんじゃない?」
 レンはけだるそうに答える。
「なら、電気無くてもなんとかなっか。テレビが無いのは暇だけど、これを機に本でも読むかな」
 そういってツアー中ブックオフで百円の文庫本を三冊買った。久々のツアーは新鮮味がなかったものの、なんとなく自分が生き返った気がしてケイスケは軽い足取りで家に帰った。案の定電気は止められているようで、真っ暗な部屋にため息をついた。一応テレビのリモコンも押してみたが当然つかない。仕方ないなと敷きっぱなしの布団に寝転んで買ってきた本を読みながら眠ろうと思ったが、当然真っ暗な部屋で文字を読むことはできなかった。
 

 
(つづく)

satukimei

五月メイ(SatsukiMei)1974.5.4

埼玉県川口市在住