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中年ファッションパンクス 20 五月メイ

cne20

20 Over 30 do the 魂
 
 ケイスケは神戸について機材を搬入しているうちに対バンすべてが敵のような気持ちになっていた。ライブハウスの中が関西弁で充満する中、なめられまいとわざと大きな声で東京のライブハウスの話をしたりする。そしてリハーサルが終わると
「SNAKEさーん。物販ありますか?」
 と、ライブハウスの人間に声をかけられた。これには三人ともぽかんとしてしまった。メンバー三人誰一人として物販の存在を覚えていなかったのだ。ただ、ツアーに行くだけだと思ってそんなことまで気が回らなかった。ツアーとは文字どおり旅に出てライブをする程度だと考えていたのだ。
「す、すいません。今回は無しで」
 慌ててヨシオが言う。持っているのはライブ音源を録音したCD―Rくらいのものでしかも一枚ときてる。
「どうするよ、ケイスケ。物販なんて考えもしなかったぞ」
 ボソボソとライブハウスの端でミーティングを始める。
「僕、ノートパソコン持ってきてますからそのCD―R焼きましょうか?」
 レンが簡単そうにそう言う。
「バカだなお前ジャケットどうすんだよ」
「とりあえず、紙パッケージのやつ買ってきてコンビニで歌詞をコピーして同封しとけばいいんじゃないですか? それで500円!」
「とりあえず今日は無しで、明日からはそれで行こう。今日オレは打ち上げ出るから二人ともその作業頼んでいいかな?」
 ケイスケとレンは黙ってうなずいた。
 そして緊張の中幕を開けたライブは周囲の予想を裏切ってそこそこに盛り上がった。二十数名の集客もあり、対バンもホールで盛り上げてくれた。ホームのはずのVoltsでは今ではすっかりお荷物あつかい。けれど、少し足を伸ばしただけで暖かく迎えてくれるハコがあることにメンバー三人ともが感動した。
「忘れられないうちにまたくるわ」
 最後にヨシオがそういうとライブは無事に幕を閉じた。
 いつもならこれで打ち上がって帰るだけなんだが、今晩はそうはいかない。空のCD―Rを探してあちこち走り回り、寝床となる駐車場に車を止めてCD―Rをひたすら焼く。日をまたぐ頃ようやっと10枚ほどを焼き歌詞カードの同封も完了した。
「こんなもんか」
 なんとなくほっとしてケイスケはコンビニで発泡酒を買って大きく一口飲むと用もないのに携帯をいじり後部座席で毛布にくるまった。レンは運転席で小さな寝息を立て始めた。眠りも深くなってきたそのとき
「ガタン」
 突然ハイエースが揺れたと思ったら泥酔したヨシオが帰ってきた。
「次は夏頃って話してきたずうぇい」
 ヘロヘロになった足取りでなんとか荷台に乗り込んだヨシオは一言だけそういうと靴も脱がずにいびきを立て始めた。
 大阪京都名古屋も同じように歓迎された。打ち上げは交代で出て、最終日の名古屋の夜は三人で吐くまで飲んだ。
「なあ、次は夏だ。今度はTシャツ作ってこようぜ」
「タオルもね」
「それよりちゃんとした音源だよ。帰ったらまずはレコーディングだ」
普通三十歳という年齢を超えたなら、就職して結婚し、子どもがいてもおかしくない歳だ。結婚が早ければ子どもがもう中学生になる人だっているだろう。ところがこの三人は、まるでまだ自分たちが中学生のように夢を語る。それは現実逃避と言われても仕方ないのかもしれない。けれど、人生の半分以上夢を見てきてしまった以上、その夢は覚めることがなく、むしろそれが彼らにとっては現実なのかもしれない。
 翌日、目が覚めると三人とも猛烈な二日酔いだった。帰りの東名は行きと違ってすごく短い道のりで、あっと言う間に自宅についてしまった。くたくた、ろくに風呂も入っていない身体からはおっさんの匂いが立ち込めた。しきっぱなしの布団に倒れこんだケイスケはなんとか上着を脱ぎ捨て眠りについた。そして翌日眼が覚めること無くバイトを休んでしまった。起き上がって熱いシャワーを浴びて生気を取り戻すと「ツアーの次の日にバイト入れちゃいけねえな」と、バイトを入れてしまったことをしきりに反省した。
 

satukimei

五月メイ(SatsukiMei)1974.5.4

埼玉県川口市在住

maria

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