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中年ファッションパンクス 19 五月メイ

cne19

19 深夜高速
 
 遮光カーテンを買ったことによって快適な睡眠を手に入れたが、ケイスケは朝起きれない自分を知ることになった。新しくバイトを探したものの、遅刻が多く気まずくなってすぐに辞めてしまう。だったら夜早く寝ればいいと思うのだが、なぜだか夜は眠くならない。それでもちょっと都会に住んでる有利。深夜のバイトをなんとか探した。レコード店で夜まで働き、深夜は運送会社の倉庫で日銭を稼いで生活していると、空気もタダじゃないんだということに気がついた。「さっさとバンドで売れないとこのままじゃ生活に追い込まれてしまう」そう思って焦るけれど何からやればいいかわからない。キャリアだけは十年を越えているのに売れるための道筋がまったく見えない。何でもできると思って翼のように思えたこの部屋も今ではすっかり重たい足かせになっていた。切り詰めていても生活はいつもギリギリ。携帯が止まることなどは毎月の恒例行事になっていた。なんとかスタジオに入るお金だけは工面していたものの、それもとうとうメンバーから借りるようになっていた。マンネリ化したスタジオ練習に意味も見出せなく、活動の限界を感じていたそんなとき
「ツアー行こうぜ!」
 スタジオ後のいつもファミレスで突然ヨシオが言い出した。
「ツアーってお前……どこに行こうってんだよ」
「名古屋、大阪、京都の三箇所を考えてるよ。お前らは最近あんまVoltsに来てないから知らないだろうけど、最近ツアーバンドが増えててさ、いろいろ話しかけてたら遊びに来てくれって言うんだよ。こりゃ行かない手はないだろ?」
 チャンスだ。とケイスケは思った。仄暗い穴倉から飛び立たつにはこれしかない。それでも相変わらず
「で、そのツアーに何か意味でも?」
 などと、いつもの憎まれ口を叩いてしまった。
「意味を見出すためのツアーなんだよ。オレたちが活動してきた意味をさ!」
 力強くヨシオは言う。最近めっきり太ってしまったレンはすっかり無口になっていたが、ドリンクバーの氷をくるくるとかき回しながら重たい口を開いた。
「じゃあ、これでダメなら今まで活動してきた意味もなかったってことですね」
「そういうことになるかもね。でも、何もしなきゃ結果なんかわからないだろ? なにもやらないより、やって結果を待とうよ」
「オーケー、そういうことなら行きますか。ところで、ヨシオ。ツアーに行くならオレの愛機も連れて行きたいんだ。そいつらが乗る足はどうするんだい?」
「手配できるよ。レンタカーも考えたけど、金かかるだろ? うちの会社の後輩がハイエース貸してくれるって。土日を混ぜて一週間くらいはいいっていうからさ」
「決まりだな」
 ついにケイスケたちはツアーにでることになった。最初は名古屋、大阪、京都と三箇所の予定だったがせっかくだからと欲張って神戸もツアー先に入れた。
「じゃあ、ツアーは三ヶ月後の三月からで決まり。がっちり練習しとこうぜ」
 ヨシオはいつもしっかり者だった。バンドをしながら仕事もこなす。こういった段取りを見ている限り仕事もできる方なのだろう。でもなぜか、結婚もせずにバンドを続けていた。
 まだ寒さも残る三月の初めの夜。ケイスケのアパートの前に三人は集まった。いい歳してニヤニヤとしながら缶コーヒーで手を暖め
「じゃ、行こうか」
 小さな声でそう呟いて車に乗り込むと、ハイエースは音を立てて走り出した。車の中にはケイスケのベース、ヨシオのギターとギターアンプ。レンのスネアとペダルにスティック。車中泊ができる毛布に寝袋。それにお気に入りのCDがいっぱいだ。最初は神戸へと向かう。東名高速に乗るころにはもう日を跨ごうとしていた。運転のトップバッターはヨシオ。
「ケイスケ寝とけよ。次の運転はお前だぜ。深夜の仕事はお前が得意なんだから任せたんだからな」
「深夜が得意なんじゃねえよ。朝がオレを受け入れてくれないだけだって」
 なんてくだらないことを言いながら暗い道を車はひたすらに走る。静岡につくころ運転はケイスケへと移った。ヨシオは後部座席へ、レンは助手席へと移動してきた。
「ケイスケくん。なんだかさ、夢みたいだね。毎晩うだうだ過ごしてるだけだと思ってたんだけど、まさか三人でツアーに出るとはねぇ」
「オレはこうなると思ってたよ。しかし、あれだな。みんながいう静岡がなげえってのは本当なんだな。いつまで静岡なんだよ」
「あ、浜松って出てきたよ。もうすぐ、なんじゃない?」
 ああ、そうかこうやって夜を明かすのがバンドマンなんだな。ただ、酒を呑み日が昇るのをひたすら待ってるだけじゃダメなんだ。ケイスケがそう思っていると背中から太陽が昇ってきた。そんな光から逃げ、名古屋に近づいてくるとケイスケはレンと運転を代わった。

satukimei

五月メイ(SatsukiMei)1974.5.4

埼玉県川口市在住

maria

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