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中年ファッションパンクス 17 五月メイ

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17 キセキ
 
27クラブ」なんて言葉が音楽の世界にはある。古くはジミ・ヘンドリクスからジャニス・ジョプリン。記憶に新しいのはカート・コバーン。最近ではエイミー・ワインハウスなど、なぜか有名ミュージシャンは27歳で亡くなる人が多い。死因はお決まりのアルコールにドラッグが多いが、中には飛行機事故なんかで亡くなったミュージシャンもいる。
 ケイスケはもちろん27クラブ入りできなかった。仮に27歳で死んだところで無名のベーシストが27クラブに入れるわけもない。三十路を越え少し出てきた腹を眺め
「まだ、いけるな」
 と、つぶやいた。後輩のバンドもかなりの数が解散した。似合わないスーツを着る仕事についたやつもいれば、作業着姿で土にまみれるやつもいた。けれど、どいつもこいつも同じように仕事は長続きしなかった。そして、またこの仄暗い穴倉へ戻ってきて、同じような話をする。「ロックとはなんだ?」「オレらは世界平和に為に歌っている」と。
 ケイスケの運がよかったところは後輩に売れたバンドがいないことだった。もし売れたバンドがいたならば、この穴倉で立場も危うかったろう。ろくに練習もせず、大した活動もしていないのに長くバンドをやっているというだけでなんとなく偉そうにしていられる。それは自分が若かりし頃嫌っていた年功序列そのものだった。
「今日のライブよかったじゃん。でも、もうちょっとミッドハイの抜けがいいと聴きやすくなると思うぜ」
 なんて今晩も後輩のバンドにアドバイスを送る。
「あざっす」
 しかし、大概のバンドはこうやって気の無い返事を返すだけだった。まだ、若いから言われたことを素直にきけないんだよな。と、ケイスケは思っていたが、後輩達にはかなりうざがられていた。楽屋では
「あの、おっさんなんであんな偉そうなの? 毎回毎回さ」
「売れもしねえ、大して弾けねえ。言うことだけはいっちょまえ。ああはなりたくないよな」
 なんて会話のオンパレード。
 そんな本人が久々にVoltsでライブをやることになった。すっかりすっかり錆び付いたベースの弦を張り替えスタジオに行き、おしゃべり八割、練習二割の時間をすごした。
「今度のライブは久々だし、なんか驚くようなことやりたいよな」
 なんてケイスケが言うとヨシオは
「あんまり奇をてらったことすると、失敗するぜ。もう若くねえなんだからさ」
 と、注意した。ケイスケがおっさんならばメンバーもみんなおっさんになっていた。ただ、違うのは二人とも就職していたことだ。
「さて、この後いつものようにファミレスでミーティングといきますか?」
「明日仕事なんでごめんなさい」
「だな、オレも早いんだわ」
 ケイスケは不満だったがこの間同級生と呑んだ時のことを思い出して何も言わなかった。
 ライブ当日。
「あんたまだそんなカッコするの?」
 なんて言う母親を尻目に家を出た。少しみちみちとしたライダースジャケットは側から見たらみすぼらしいものだったが、ケイスケにとっては戦闘服のようなもので、これを着ると身が引き締まる思いがした。
 Voltsにはいつもの連中に加えて後輩のバンドが多数集まっていた。
「お前らもちろん、ライブ来るよな?」
 脅しに近いそのセリフでとりあえず人を集めたのだ。後輩達はめんどくさいながらも先輩のわがままに付き合った。それでもライブが始まる前には
「あれ? お前もきたの?」
「なんだお前もか?」
 なんてステージ下でわいわいと盛り上がった。
 ライブが始まると演奏は相も変わらず酷いもので、ベースのチューニングがずれていることにも気付かない。後輩達はもうこの先輩から学ぶことはなにもないと、何人かは外へ出て行った。ケイスケは少し太ったその身体を必死に動かしステージ上を暴れまわる。そのせいか二曲目にはもう息が上がってぜいぜいとなった。三曲目が終わりMCをはさむ時ケイスケは缶ビールを開け、それを自身のあたまからかけた。海外のミュージシャンがやっていることの猿真似だった。もちろん会場はしんとしたまま盛り上がることはない。そしてライブは進み曲間のまばらな拍手の中その事件は起きた。さっきのビールでケイスケが派手にすべり転んだのだ。
「ゴッ!!」
 マイクに顔面をぶつけ大きな音がスピーカーから流れる。あまりの激痛にライブを止めようと思ったが、ライブを止めるなんてロックじゃねえと次の曲へ進もうとする。メンバーに目配せするとなんだか二人の様子がおかしい。ピックを持つ手にぽたぽたと血が流れてきた。どうやら口の中を切ったようだ。
「こんくらいでオレはライブやめたりしねえ! お前らかかってこい!!」
 でかい声を張り上げてケイスケが叫ぶと後輩達はなぜかニヤニヤとしている。ヨシオが
「オマエ……前歯」
 と、マイクを通して教えてくれた。口に触れると腫れた唇の奥、確かに前歯の感触がない。口を閉じて息を吐くとスースーと息はだだ漏れだった。ケイスケはその場で折れた歯を捜し出したい衝動に駆られたがぐっとこらえ
「次の曲は折れた前歯に捧げるぜ!」
 と、再び叫んだ。これがこのライブで一番盛り上がった瞬間だった。
 

satukimei

五月メイ(SatsukiMei)1974.5.4

埼玉県川口市在住

maria

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