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中年ファッションパンクス 15 五月メイ

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15 DEAD JAIL OR ROCK’N ROLL
 
 ビルが死んだ。久々登場のジムが発したその言葉に不謹慎ながらもケイスケはわくわくした。海外へ行っていたはずのビルの死因は? ドラッグによるオーバードーズ? バーやヴェニューで揉め事に巻き込まれて銃で撃たれた? ああ見えて意外に女性絡みのトラブルで刺された? などと邪推をはりめぐらした。
「久々に登場したと思えばそれかい? なかなかいいパパしてられねえな。で、ビルが死んだってのはわかった。なんで、死んだんだよ?」
 キースもどうやら同じ気持ちのようで、悲しさよりも好奇心が上回っているようだった。肉親から直接連絡を受けたジムは、ケイスケ達の好奇心に呆れたように口を開いた。
「あいつな、最近めっきり太ってたじゃないか。ああ見えて意外に繊細なとこあってな。周りがから『太ったな』て言われることに結構傷ついてたらしいんだよ。それで、ダイエットを始めたらしいんだ……」
「おいおい、オレが聞きたいのはあいつのダイエット話じゃないぜ? 海外に行ってたビルがどんな死に方をしたのか聞いてるんだ。背中から撃たれるようなヘタレじゃないとオレは思ってるからな」
 キースが口を挟むとケイスケも
「オレが初めて組んだリズム隊がそんなんじゃ困る。見た目通りパワフルに散っていったんでしょ?」
 と、ケイスケも言葉を重ねた。不思議なことに口を開くとケイスケはじわっと悲しさがこみ上げてきた。無口だけれど、スタジオでもステージでもいつも隣にいてくれたビル。いまのドラマーであるレンとは正反対の図太いビートを鳴らしながら、アイコンタクトでキメを鳴らしたこと数え切れず。けれど脳裏に浮かぶのはいつも不気味な笑顔。プレイ面ではともかく、ルックスでは特徴のあるドラマーだった。
 そんな二人の様子を見ながらなぜだかジムは少しホッとしたようだった。
「まあ、落ち着けって二人とも。あいつダイエットを始めてな、痩せるまで誰にも会わないって言ってたらしいんだ。ところが、全然痩せなかったらしいんだよ。運動した分食っちまうらしくてな。運動つってもあの身体でジョギングなんかできないし、なんとなく裏の土手でウォーキングしてたらしいんだよ」
「はっ、あいつがジョギングなんかしたら膝痛めちまうわ」
 キースはニヤニヤしながら話の腰を折る。
「そんでさ、ウォーキングしてたら心筋梗塞で倒れてそのままってわけだ」
 ??? 二人は釈然としないどころかわけがわからなかった。
「ちょ、ちょっと待ってくれよジム。それは表立ってってことで実は裏があるんだろ?」
 キースが言うことにケイスケがうなずく。しかしジムは首を振った。
「これだけだ。昨日の早朝、あそこの土手で仰向けに倒れてるって通報があって、救急車が駆けつけたときには冷たくなってたと」
「ねえ、ジム。そこに事件性はないの? あの風貌が土手に倒れてるんだよ? 普通なんかしらのトラブルを疑うんじゃない?」
 ケイスケも納得がいかない。
「なにもない。あいつの不幸は『夜型』だったことだ。朝起きてウォーキングをするような健康的な生活だったら他の誰かに早期発見されて助かったかもしれない。だけどあいつはデブで夜型だった。血圧だって高かったろうし、心臓にもかなりの負担がかかってたんだろう。この寒さの中、夜中の土手に人なんか誰もいやしない。倒れてそのままだ。救いがあるとしたら仰向けに倒れたってことだ。一昨日の夜は満月だったし、さぞかしいい眺めだったことだろうぜ」
 ロックとは生き様よりも死に様が問われる。5発の銃弾をぶちこまれ「I’m shot」と叫びダコタアパート前で凶弾に倒れたジョン・レノン。思い通りの曲が作れず「It’s better to burn out than to fade away」と強烈な筆圧で遺書を残し、自らをヘッドショットしたカート・コバーン。21歳で恋人を刺殺し、自らはオーバードーズで死んだシド・ヴィシャス。後世に名を残すロックミュージシャンはその楽曲を元より死に様も強烈だ。ところがVoltsの仄暗い穴倉に生息する自称ロッカーの死に様はどうだ。太りすぎによる心筋梗塞。事件性のかけらもない。命を賭してもメディアに取り上げられることもない。
「そんなわけであいつは死んだ。葬儀は身内だけで行うとさ。お前らみたいなのに集まって欲しくないんだろうな」
 ちょっと伸びた坊主頭をさすりながらジムは言う。ケイスケたちは目を合わせたがすぐにそらし、出す言葉も浮かばずにVoltsはいつものように閉店を迎えた。
 
『俺達は死の取り決めがあったから、一緒に死ぬ約束をしてたんだ。 こっちも約束を守らなきゃいけない。今からいけば、まだ彼女に追いつけるかも知れない。お願いだ。死んだらあいつの隣に埋めてくれ。レザー・ジャケットとレザー・ジーンズとバイク・ブーツを死装束にして、さいなら』 シド・ヴィシャス
 

satukimei

五月メイ(SatsukiMei)1974.5.4

埼玉県川口市在住