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中年ファッションパンクス14 五月メイ

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14 Rock n Roll is Dead
 
 Voltsしか行くところがなかった。正月早々バイトを辞めたケイスケには金も無く、家には居場所も無いのでとりあえずVoltsへと向かった。初めて来た時にはあんなにも暗かった階段だったが、いつの間にか目をつむっても降りれるようになった。重くて仕方がなかったこの扉も今では片手ですいと開けられるように。
「どうだった、成人式は?」
 扉の向こうにはキースがいた。
「なんだか無駄だった。どれだけの数ステージに立ってたって、スーツ着てる連中の方がちやほやされるんだな」
 同級生であるヒロユキがテレビに出ていたことはなんとなく隠した。
「ま、オレらバンドマンにとって成人式なんてのはいいもんじゃないんだよ。社会人がえらいってぇことなんだろな。オレは死んでもスーツなんか着たく無いし、満員電車なんてごめんだけどね」
「ほんとそうだった。あいつらはあれで楽しいのかね?」
 社会からはみ出していればはみ出しているほどロックだと思っていたケイスケはそういって社会人を揶揄し、一丁前のロッックンローラーを気取った。それにしたって引っかかるのはヒロユキのことだ。酔っぱらって記憶は曖昧だが、ブラウン管に映し出された姿は間違いなくヒロユキ本人。フロントには女性のボーカリストが立ち、その下手側でゆるりとギターを弾いていた。そういえば、成人式の会場に着いた時もヒロユキの周りには人だかりだった。
「んで、ツアー中にさ、オイ、ケイ、聞いてる?」
「ん? ああ、なんだっけ?」
「これだもんな。先週ツアー中に一緒にやったバンドがさ前にVoltsでやった京都のバンドのメンバーだったんだよ。ほら、一回大ゲンカになったことあったじゃん」
 そういえばそんなこともあった。もちろんその時ケイスケは乱闘に参加せずにトイレに避難していたが
「でさ、そんときの借りを返すとか言われんのかと思ったらすげーいい奴なんだよ。よく考えてみりゃあんときもなんで乱闘になったんだがわかんねえよな」
 バンドマンとは不思議なもんで、平和を歌って乱闘し、愛を歌って浮気をする。夢を信じて努力をせず、社会に出ないでに社会の不満を言う。多くの夢見がちなバンドマンが奏でる曲はそのほとんどが現実逃避の独りよがり。例の乱闘事件の時も相手をもっと理解してやれば起きなかった。もちろんなめられまいと気張っていた京都のバンドにも問題がある。
「ツアーかぁ。オレもそういうの行ってみたいんだよね」
 珍しく素直にケイスケがそう言った。自分の同級生がテレビに出ていたことのあせりがそこにはあり、せめてツアーにでも出ていれば成人式の時に
「バンドやってんだよね。オンボロハイエースに機材積んでたまにツアーも出てる。大して売れてはいないんだけどさ」
 なんて小さな見栄も張れた。ところが現実はどうだ。毎晩毎晩同じハコに集まって同じメンツで同じ話。「なんか面白いことない?」と話していた中学時代からなんの進歩していない。ヒロユキと同時にギターを鳴らし、退屈から脱したはずが、結局新たな退屈を生み出し、暗い穴倉でくすぶっている。酸素の薄いその穴倉では大きな爆発が起きるはずも無く、ただもくもくと煙を出し新しい燃料を待ち続ける。ここに集まっているバンド全員が知っていた。いつかどかんと売れるんじゃなくて、いつか地道に働かなきゃいけないってことを。ここにいるキースだってツアーに行っても何も変わらない。CDを出したところでオリコンに入ったなんて話は聞かないし、テレビで姿を見るわけでもない。街を歩けばきゃあきゃあと人が集まるわけもなく、白い目でじろじろと見られるばかり。なぜ、ケイスケとヒロユキに差がついたのか。ケイスケはキースの話を聞き流しながら考えた。そして、こう結論付けた。
「あいつは運がよかったんだな。考えてみれば、オレだってコンテストでいいとこまでいってるわけだし、あと少しの運かコネがあればなんとかなったんだ」
 と。
 バカだった。バカなまま成人を迎えてしまった。ライブが全部終わってお客さんが帰っていく。今日のVoltsにお客さんは5人。やっぱりステージ上の人数の方が多かった。
「そういや、最近ビル見ねえな。あいつどうしてんだ? オレがツアー行ってる間も顔出してないの?」
「最近めっきりだね。海外旅行行ってるって話だったけど、まだ帰ってこないのかね」
「あいつの風貌だ。入国審査にひっかかっても仕方ない。どこだかのグリーンカードでも取ったんじゃねえの?」
「言えてる。とても日本人には見えない、てか、動物だしね、あれ」
 二人が元メンバーの馬鹿話をしていると、もう閉店間近だったVoltsの重い扉がバンッと大きな音を立てて開いた。そこに立っていたのは息を切らせたジムだった。
「おー! 久しぶりじゃん。いいパパしてるかい?」
 なんてキースが声をかけると、ジムはバーボン一杯を呷り息を落ち着けてこう言った。
「ちょうど二人がいてくれてよかったわ。落ち着いて聞いてくれ。ビル、あいつ死んだぜ」
 

satukimei

五月メイ(SatsukiMei)1974.5.4

埼玉県川口市在住