F T R @
九州発! 日本中が楽しくなるWEB文芸誌。美術館・博物館のイベント情報、気になる本や本屋さん、読みたい物語がきっと見付かります

中年ファッションパンクス13 五月メイ

chunn13_02

13 フェイド アウト
 
 年があけたところでケイスケの姿をテレビで見ることはなかった。それどころか正月ボケの頭でバイト先の工場に行くと、なんだか働くこと自体がバカバカしいことに思えて松がとれるころには無断欠勤するようになって辞めてしまった。そして、昼近くまで寝て夕方にはVoltsに行く生活が始まった。そこにはもう刺激はなかったが、同じようにだらだらとした連中がいることでなんだかとても居心地がよく安心感があった。そんな中
「ケイ、うちのバンドリリース決まったんだよ」
 と、嬉しそうにキースが話し始めた。
「小さなレーベルだから枚数も少ないけどさ、リリースツアーも一応やるつもりだ」
 本来なら「おめでとう」の一言もあってしかるべきなんだろうが、ケイスケはなんだかモヤっとして
「そんなレーベルで大丈夫なの? 騙されてるんじゃない?」
 などと言った。
「いや、そこいらはだいじょうぶ。一応先輩たちもいるしさ。まあ、みんな生活するまでには至ってないけど楽しくやってるレーベルだよ」
「よかったっすね、キースさん。オレらも今年はやりますよ!」
 ヨシオは素直に祝いの言葉をかけた。レンはニコニコと握手をして
「CD買いますよ」
 と、嬉しそうに言った。ビルはもちろん黙っているだけ、言いたいところだがここのところVoltsに顔を出していなかった。どうやらしばらく海外に行ってるということらしい。
「ところでケイ。お前今年成人式だろ?」
「そうなんだよ。来週ね。たまには中学の連中と顔合わせてくるわ」
「そっか。まあ、いろいろあっけどがんばってこいよ」
 成人式で何を頑張らなくてはいけないのかケイスケにはまったく見えなかったが、なんとなく
「ありがとね、お祝い待ってるわ」
 なんて軽く返事をした。
 式当日はスーツでも紋付袴でもなくライダースジャケットにスパイキーヘア、サングラスとエンジニアブーツいう出で立ちで式に挑むことにした。家を出るときに母親が
「あんた、成人式くらいちゃんとしたカッコできないの!? なんで用意しとかないのよ、みっともない」
 と、怒鳴ったが
「みんなが正装でくるならこれがオレの正装だよ。社会にでるためにこのカッコしてんだからなんか悪い?」
 などと、屁理屈をこねてドアを出た。会場へ向かう道すがら晴着やスーツで照れ臭そうにしてる連中を見て「こいつら流されてんな」と、生き方を貫く自分を誇らしく思った。
 会場につくと懐かしい顔ぶれが輪になってがやがやとしていた。たかだか5年ぶり程度、ましてや狭い街でちょこちょこ見かける顔も多いのになんだかすごく嬉しい気分になった。
「そのカッコ! お前バンドやってんの?」
 やら
「すげえな。逆に目立つわ」
 と、バカにする言葉をかけられても今のケイスケには褒め言葉にしか聞こえなかった。すると目の前にとりわけ固まって同級生がいる。
「久しぶりじゃん、お前ら」
 そう話しかけると輪の中心にいたのは中学時代同時にギターを初めたヒロユキだった。
「久しぶりだね」
 そういえば中学時代から二人は会っていなかった。色んな同級生を街で見かけることはあっても、なぜかヒロユキを見かけることはなかったのだ。
「そのカッコ。バンドやってるみたいね」
 その頃とは打って変わって落ち着いた様子でヒロユキは言う。
「まあね、今じゃライブハウスでバンバンライブしてるよ。あの頃よりはよっぽど上達したぜ」
 上達もしてなければ成長もしてない、なんならほとんどVoltsでしかライブをして無いクセにつまらない見栄を張る。
「そうか、よかったよ。楽器やめてなくて」
「当たり前だろ、オレにはこれしかないんだからよ」
 その言葉を聞いたヒロユキは少しクスリとした。少し嘲笑じみたその笑いにケイスケは少しカチンときたが「バンドやってるオレがうらやましいんだろな」と、思いとりあえず式場へと向かった。
 式はひどく退屈なものだった。最後のヤンキー世代が紋付袴姿で暴れるかと思いきや意外にもおとなしく、晴着の女性陣は肩が凝ったのか首を常に動かしている。よくわからない地方議員は選挙に来いといい、役所の人間は税金を払えと言う。そんなひどく退屈な時間を過ごし、夜の予定をみんなで決めてとりあえずその場を去ることにした。
「ヒロユキ、お前も来るだろ?」
「悪いんだけど、別の予定が入ってるんだ」
「なんだよ、久しぶりなのに予定なんか入れるなよ」
「まあ、またすぐ会えるよ。楽器やってれば」
「そうか。んじゃ今度はオレのライブでも遊びにきてくれよ」
 せっかく誘ったのに断られたの面白くないが、楽器をやっていればまた会えるというのが「なんだかんだオレのこと気にしてくれてんだな」という気がして嬉しかった。
 その数時間後。ケイスケは同級生とチェーン店の居酒屋で昔話に花を咲かせていた。結婚したやつもいれば髪が薄くなったやつもいる。サラリーマンとして働いているやつもいれば大学生も。でも、人生にやりたいことを見つけて自由に生きている人間は自分だけだとわかると、すべての同級生が下に見えた。宴もたけなわとなり会計のときに
「じゃあ、今度ライブ来てくれよな」
 と、みんなを誘うと
「絶対行くよ」
 と、声を合わせてみんなが言ってくれた。そして、家に帰った深夜コップ一杯の水を飲みテレビをつけると深夜番組でギターを弾くヒロユキの姿があった。
 

satukimei

五月メイ(SatsukiMei)1974.5.4

埼玉県川口市在住