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中年ファッションパンクス12 五月メイ

chunen

11 ロクデナシ
 
 オーディションでの失敗を繰り返さないためにもケイスケはベースを練習し始めた。今まではなんとなくの練習でしかなかったが、こうやって好機を逃すようなことがあってはならないと身にしみてわかったようだった。いくらパンクといえど演奏ができるに越したことはないはずだ。そう思いベンベコとやる気のピッキングをしていると
「あんたさ、少しは勉強したら」
 すっかり忘れていた。卒業して以来、ベース以上に勉強なんてしてないが形だけは浪人生。毎日昼過ぎまで寝てふらふらっと出かけたりしたと思えば、夜にベンベコとベースを弾く。そりゃ母親も不審に思う。
「いまやろうと思ってたんだよ、ああ、もう、うるっさいな!」
 最初から勉強する気などなかったが、練習する気も失せてしまった。
 実はケイスケは少し迷っていた。いまから勉強すればひょっとして受験に間に合うんじゃないかと。バンドで食ってくなんてカッコいいこと言ってたものの、オーディションに出てみたら地区予選すら突破できない有様。考えてみればバンドで褒められたことなど数えるほどしかなく、自分に才能が無いことはとうに気づいている。そしてそこまで楽器が好きではないことも。ここですぱっと諦めて勉強に集中すれば、そこそこの大学に入れるかもしれない。そう思って参考書を開いてみるもちんぷんかんぷん。今更予備校行ったって落ちこぼれるのは目に見えてる。ごろりと寝転がり天井を眺め、どうしようも無い閉塞感を感じながら打開策を考えるも、その甘えた頭では何も閃くはずもなかった。そして秋が来て冬を迎える頃
「ごめん、オレ受験しないわ」
 ようやっとケイスケは母親に伝えた。
 年を越え松がとれたころ、ケイスケはガソリンスタンドでバイトをはじめた。ノンビリとガソリンを入れるだけの仕事だったはずだったのが、庶務多数。しかも、エンジンオイルの交換を勧めろなどと上司に言われ、営業マンのモノマネまでした。ある日、客に
「てめー、勝手にエンジンルームあけんじゃねーよ」
 と言われしょぼんとしたことも。とにかくここはストレスがたまった。
 ガソリンスタンドのバイトに見切りをつけるとケイスケは近所の工場でバイトをはじめた。ルーティンワークで時間がすぎるのを待っているだけの仕事は性に合ってはいた。なんといっても妄想し放題。自分がでかいステージに立つ様子をことこまかにイメージトレーニング。見たこともないマジソンスクウェアガーデンのステージまで妄想は膨らんだ。もちろんその時には工場長に怒られた。ところが一月もやっていると自分に疑問が浮かんだ。なぜ自分は生きているんだろう?生きる理由などこの世にあるわけもないのに、この疑問にケイスケは向き合った。結果、自分の人生はここにはないと考えた。これは途中途中途中。大きな目標を成し遂げる為の途中なんだ。そう思うようになった。そしてとたんに途中が苦痛になってしまった。それでも自分はバンドはやっている。それだけの矜持で時給800円の作業をこなした。
 気がつけば2年が過ぎようとしていた。ベースを弾く時間よりも機械をいじる時間が多くなっていた。バンドは細々と続いてはいたが月に一度Voltsのステージに立つ程度。それでも5人くらいの客もつき、ケイスケはそのうちの一人と付き合いはじめた。バンドとして勢いがあるわけではないがノンビリとした活動。だいじょうぶ、このまま続けていけば5人が10人に、そして100人になる。そう信じていた。
「あんた、二十歳になるけどどうすんの?」
 母親は残酷だった。年齢という現実を容赦なく突きつける。
「いくつまでそうしてる気」
 いつかは言われると思っていた。それでも自分はバンドで成功すると思っているので。
「年末にはNHK録画して、年明けには親族近所で話題なるから待ってなよ」
 なんて言って母親を常に呆れさせていた。
 

satukimei

五月メイ(SatsukiMei)1974.5.4

埼玉県川口市在住