F T R @
九州発! 日本中が楽しくなるWEB文芸誌。美術館・博物館のイベント情報、気になる本や本屋さん、読みたい物語がきっと見付かります

中年ファッションパンクス11 五月メイ

cne

11 GET THE GLORY
 
意外なことにThree Arrowsはトップで一次予選を突破した。しかもベストギタリスト賞とベストドラマー賞。それにベストパフォーマンス賞というおまけつきで。
「ま、こんなもんだよね。まだまだ高校生なんかには負けないって」
 ケイスケがそう言うとヨシオとレンはうなずいた。実際一次予選のレベルはひどかった。会場は楽器屋が運営する練習スタジオで、出演バンドは文化祭のノリで参加している高校生が数バンド。チューニングもあっていないような楽器を振り回している状況だったのだ。
「次の地方予選でもいい成績になれるようにドラム練習しときますね」
「オレもギターと歌、練習しとくわ」
「んじゃ、オレも少しはベース弾いとくかね。実際は楽器の練習よりステージングの方が大事だとは思うんだけどね。次は少し広いステージみたいだし、飲まれない気持ちと動き回れる練習もしようぜ」
 ケイスケはベストベーシスト賞をもらえなかったことに納得がいかないようだった。それでもベースを練習していないことは自分が一番知っていたので「まだ、本気じゃないしな」と言い聞かせて気持ちを落ち着かせていた。
 地方予選の会場はたまに有名人がくると盛り上がる五百人ほどのキャパシティがある公共ホールだった。地方予選当日までにThree Arrowsは三時間の練習を二回ほどした。正直たった二回の練習では大した進歩は見られなかったが、一次予選をトップで通過する実力はあるのだから地方予選もなんとかなるだろうと三人とも思っていた。
 しかし、地方予選のレベルは一次予選のそれとは大きく異なっていた。リハーサルの音だしを見る限り文化祭レベルのバンドは皆無。オリジナル曲を用意しているのが当たり前。演奏のミスなどもちろん無く、自身の楽曲に対する理解度を楽屋で話すなど、とても十代のアーティストとは思えないほどだった。Three Arrowsの出番はトップ。
「なんだよ、トップかよ。客あったまってないし、やりづらいんだよな」
 と、一丁前の口を叩くケイスケも緊張を隠しきれない様子でぺしぺしと膝を親指ではじく。
「Three Arrowさんお願いします」
 呼ばれて立ったステージは想像以上に大きかった。ケイスケはいつも大きなステージで演奏する自分を想像してイメトレを繰り返していた。寝る前に目をつむり武道館に立ったこと数知れず。Mステのコメントはもちろん考えてあるし、音楽活動の後にはドラマの主演までと妄想は限りなく膨らんでいた。ところが実際はどうだ。たかが五百人キャパ程度の公民館レベルで心臓はバクバクと鼓動を早め、膝はカクカクと震えている。ヨシオは楽屋からほぼ無言、唯一いつもと変わらぬ様子のレンがスティックでカウントを鳴らす。
 最初の一音をケイスケは盛大にミスった。その後はもちろんグダグダ。立て直そうとすればするほど壮大にリズムがずれていく。ここで開き直って好き放題ステージ上を暴れるまわる機転があれば、ここでもベストパフォーマンス賞ものだったのだが、リズムに取り残されたケイスケは立ち位置をすら変えられず棒立ちで弾き続けた。もちろんバンドは地方予選を突破できるはずも無く帰りの電車では重い空気が流れた。
「なんか今日朝から調子よく無くてさ。悪かったな」
 ようやくケイスケがクチを開くと、ヨシオもレンも一斉に話し始めた。
「まあ、調子悪い時は誰にでもあるんだし、しょうがなくない? オレも今日声でなかったし」
「ボクも一箇所ミスっちゃいました」
 最寄り駅までの二十分。三人ともひたすら自分ミスを反省した。駅からの帰り道、ケイスケはコンビニで缶ビールとワンカップを買った。十代最後のチャンスだったかもしれないオーディションで犯した失態をすぐにでも忘れたかった。でも、メンバーに迷惑をかけたことなどは頭の隅にもなく、自分はまだ十代。この後なんどでもチャンスはめぐってくる。そう思うことでなんとか自分を慰めた。家に着くと缶ビールを開けヨシオが外した音程と、レンのミスを思い出して自分の失態を忘れた。
 

satukimei

五月メイ(SatsukiMei)1974.5.4

埼玉県川口市在住