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中年ファッションパンクス10 五月メイ

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10 Do you remember Rock and Roll Radio
 
 ヨシオが紹介してくれたドラマーはレンと名乗った。すらっとした長身で、ガリガリと言ってもいいほど細い身体はどう見てもドラマーの体型には見えない。それに加えて、小さな顔に女性のような容姿はどう考えてもフロントマン向きだった。
「ってことでレン君も来たことだし、これからちょっとスタジオいかない? 実は予約もしてあるんだよね」
 どこまでも根回しのいいヨシオ。これだけのお膳立てをしてもらったケイスケは
「ちょっと今日、金が無いんだよね」
 と、残念そうに言った。確かに金はなかった。でもそれ以上に自信がなかったのだ。なにしろ楽器なんてほとんどいじってない。そんな状態で初対面の美少年とスタジオなんてとても無理。
「だいじょうぶ、今日はオレが出してやるよ。バイト代入ったばっかでさ」
 ヨシオはケイスケの逃げ道を先回りして塞いで行く。
「そんなんわりいから、いいよ」
「いきましょうよ、ケイさん!」
 少し高いその声でレンはケイスケの袖をひっぱった。
「ケイさんのライブ見たことありますよ。いつか一緒にやってみたいと思ってたんです」
 もうケイスケは断れなかった。
「少しだけ、一時間だけな」
 袖を引っ張られたケイスケは渋々とシールドをベースアンプに差し込んだ。「ヴン」と電源スイッチをいれ手首をぷらぷらとさせていると、ドラムに腰掛けたレンが聞きなれたリズムを刻みはじめた。「ダン、ダン、ダダダン、ダダダダン、ダンッダ」Do you remember Rock and Roll Radioだ。ラモーンズならお手のものとケイスケは低音をうならせる。レンのリズムは力強いものではなかったが、鋭くピシッと正確に刻まれるものだった。曲が進むにつれてケイスケは自分が高揚していくのがわかった。ヨシオのギターとヴォーカルが入るとそれは更に確かなものへと変わっていった。気がつけば予約の2時間たっぷり音をだしていた。練習が終わるとトイレに行くと言ってヨシオは階段を上って行った。レンと二人きりになったケイスケは何を話していいかわからず
「レン君さ、好きな人とかいるの?」
 と、素っ頓狂な質問をしてしまった。本当は好きなアーティストを尋ねたかったはずなのに。
「あははっ、ケイさんてばいきなりだなぁ。好きな人いますよ。付き合ってる人はいないですけど」
 まるで中学生のような笑顔でレンは言った。変なことを聞いてしまったなとケイスケは思ったが、なんだか笑ってくれたのでよかったとも思った。
「今日どうでした? ボクのプレイ変じゃなかったですか?」
 変なところなんてひとつも無かった。自分のベースがドラムに引っ張られていくのがわかる。今までに体験したことないくらいに素晴らしいプレイだった。
「なかなかやるなぁと思ったよね」
 ケイスケは明らかに格上のプレイヤーを素直に褒めることができなかった。
「よかったです。じゃあ、合格ですか?」
「テストだったんだよ、今日はレンの」
 そういってヨシオは買ってきたコカ・コーラをケイスケに投げた。
「なんだよ、テストって?」
「ケイはさ、オレが探してきたドラマーってだけじゃ納得してくれないだろ? だからさ、レンには簡単なテストって言ってラモーンズを何曲か覚えさせておいたんだ。即席にしちゃうまかったろ?」
「おっと、なんだかずいぶんと疑り深いな。別にオレは誰がバックで叩こうと自分が弾ける場所があれば問題はないぜ。まだオレのことわかってないなあ。だいたいにしてオレはコークよりペプシ派だから」
「ボクじゃペプシになれないですか?」
 目をキラキラとさせながらレンが言う。
「ペプシの方が好きだけど、コークも嫌いじゃないんだぜ」
 どうしても素直に褒めたく無かった。おそらくは自分より年下であろうドラマーを認めたら負けな気がしていた。
「じゃあ、最高のコークを目指しますね」
「がんばれよ、これからよろしくな」
 そういってケイスケがコーラのプルトップに指をかけると勢いよくコーラが噴き出してきた。
「な、だからオレ、ペプシ派なんだわ」
 それから7月のオーディションを迎えるまで、毎週ここでバンド練習をした。バンドしてのまとまりはだいぶ整ってきたが、ケイスケは相変わらず上達しなかった。だけど、まわりの上達がそれを助けまるで自分までもが高いレベルでの演奏ができるようになっていると思っていた。
「ふうっ、だいぶいい感じに仕上がってきたな」
 ケイスケは練習終わりに毎回そう言った。残りの二人はなんとなく演奏に不満が残っていたが、ケイスケの機嫌を損ねても面倒なので話を合わせた。
「いよいよ来週本番なんだけどさ、バンド名どうする? ケイが考えてよ」
「オレがかよ? そういう大事なことはバンドで決めた方がいんじゃね?」
「僕もケイさんが考えた方がいいと思うな」
 きっと自分の意見は通らない。なんとなく二人ともそう感じてケイスケにバンド名を一任した。
「そうだな『Three Arrows』ってどうよ? よく言うけどさ、三本の矢なら折れないだろ?」
「お、なんかカッコいいじゃん。それで決まりっ。な、レンもいいよな」
「ケイさん、さすがです!」
 さも今思いついたかのように応えたが、このメンバーになってからずっとバンド名を考えていた。音の響きも意味もなかなかいいものが思いついたと我ながら思っていた。ただ、残念なのは毛利元就が言う「三本の矢」を英訳しても「Three Arrows」にはならないことだった。

satukimei

五月メイ(SatsukiMei)1974.5.4

埼玉県川口市在住