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中年ファッションパンクス9 五月メイ

chunen9

8 オレたち
 
 「なんか面白いことない?」
 結局ここにケイスケは戻ってきてしまっていた。あれだけ退屈だと思っていた学校も卒業してみれば、それなり抗うものがあって退屈ではなかった。文化祭だけ盛り上がりを見せるチャラチャラしたバンドや、してもいない心配をして保身に必死な教師をからかって過ごした日々はそれなりに充実していたのだ。
「あんた! 一応浪人生なんじゃないの? 少しは勉強したら?」
 母親の声が階下から聞こえる。両親には浪人すると説明していた。当然、進学の意思などなく、勉強なんかする気はなかったけれど働く気はもっとなかった。「バンドでなんとかならんかな」そう思って一年の保留期間を自ら設けたのだ。
「いまちょうどやろうと思ってたとこなんだよね。ところでお昼何? また素麺?」
「あのねぇ。昼まで寝てていまからやろうたって説得力ないのよ!」
 日が落ちるとケイスケはVoltsに向かった。何か用があるわけではないが、そこにいけば暇を持て余した知った顔が何人かいる。
「よう、浪人生。勉強してるかい?」
 キースは別のバンドを組んだようだ。なんでも今度はハードロックだそうで、オリジナルの製作も順調。近々ライブをやるから見に来てくれよとケイスケの肩をぽんと叩いた。ビルは相変わらず口数が少ないが、いるだけで、その存在感は増していた。
「ビル、少し痩せた方がいいぜ」
 むちむちとしてズボンに腹の乗ったその姿を見てケイスケが言う。存在感だけでなく体重も増したようだ。そしてVoltsのムードメーカーでいつも周りを明るくしてくれていたジムの姿はもうここにはなかった。
「おい、ケイス……おっとここではケイだっけか。ちとこれ見てみなよ!」
 ヨシオはいつの間にかVoltsに出入りするようになっていた。その人懐っこい性格からすぐにVoltsに馴染み今ではケイスケよりもVoltsにいる時間が長いくらいになっていた。そんなヨシオが持ってきたチラシには「十代限定バンドオーディション『TEENAGE ROCK STAR』」と書かれている。
「へえ、こんなんあるんだ。でもオレ今バンド無いし、お前も無いじゃん」
「無いよ。だからさ、この際オレらでまたバンドやらない?」
 この誘いにケイスケは心の中でガッツポーズをしたが、なるだけ悟られないように。
「またお前とかよ。文化祭の悪夢を忘れたのか? もう、スベるのはごめんだぜ?」
 あの時スベったのはどう考えてもケイスケの選曲に問題があったはずだが、まるで自分には責任がなかったかのようにヨシオに伝えると
「今度はだいじょぶだって。オレだってあれからギター練習して結構上手くなったし、実はオリジナルも何曲か書いてるんだよ」
 これには少し驚いた。ケイスケはたまに見るテレビの歌番組を見ちゃ「日本の音楽のレベルは低いねぇ」などと能書きをたれるくらいで、ジムの脱退以降楽器にほとんど触れていなかった。そうやってケイスケがただダラダラと過ごしていた時間にヨシオは楽器を練習し、曲まで書いていたのだ。ケイスケは同い年で楽器を弾くヨシオの頑張りに「ラッキー」と思った。これで曲が書けるギタリストをメンバーに確保できた。しかも、このタイミングで十代限定オーディション。こういう時は大概のことがうまくいく。
「それでドラムはどうする? それにヴォーカルに心当たりはあるのか?」
 すっかりリーダー気取りでケイスケが言う。
「ドラムはこの間ここに出てた若いバンドのヤツに声かけてある。ヴォーカルはオレがギター弾きながら歌おうかと思ってるよ」
 ヨシオはここまで計画してケイスケに声をかけていた。きっちりお膳立てしてから声をかけないとケイスケの性格からして断ってくる可能性が高いと思っていたのだ。同級生でライブハウスに定期的に出ていたケイスケはヨシオにとって小さな憧れであってなんとしても一緒にバンドがしたかった。
「じゃあ、いっちょやろうか! オレも実は最近退屈しててさ、そろそろバンドやりてえなと思ってたとこだったんだよ」
 ケイスケの応えははヨシオの想像通りのものだった。
「それでそのオーディションはいつよ?」
「7月の終わりだね。後2ヶ月半あるから毎週練習すればいい仕上がりになると思うよ」
「十代つってもどうせ高校生がほとんどだろ? 負ける要素ねえな。よし、んじゃそのドラム君を紹介してくれよ」
「そういうだろうと思って今日これからここにくるよ」
「オイオイ、随分と用意がいいこったな」
「まあね、オレだってバカじゃないんだよ」
「オレだって勉強は苦手だけどな、あれだぞ、バカじゃないんだぞ」
 進学してチャラチャラとサークル活動してるヤツも、ネクタイ締めて満員電車に揺られてるヤツなんかともオレは違う。自分たちには特別な力があると二人とも信じて疑わなかった。つまり、二人とも十代でバカでしかなかった。

satukimei

五月メイ(SatsukiMei)1974.5.4

埼玉県川口市在住