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中年ファッションパンクス8 五月メイ

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7 バカになったのに
 
「進学しないのか?」
 薄ら禿げた頭の担任はケイスケにそう訊いた。
「お前、バンドやってるそうだな。でも音楽で食っていくのは生半可なことじゃないぞ。ここらで一度ちゃんと勉強し直して大学行くのもいいんじゃないか?」
 当然ながら音楽で大成するというの容易なことじゃない。たとえどんなに売れたとしても、その人気を十年保つことができるアーティストなんて片手で数えるほどだ。
「先生さ、オレは別に音楽で成功しようとは思ってないんだよ。売れたからなんなんだって話。オレの人生なんだから好きにさせてくれよ」
 完全に嘘だった。売れたくないなら人前で演奏する必要などない。家でしこしこと大好きな楽器をいじっていればそれでいいのだ。人前で演奏するということは自分を見て欲しいことの表れ。ただ、何故かバンドマンは売れたい気持ちを隠したがる。好きなことをやってる自分がかっこいいと思っているのだ。
「そうか、確かにお前の人生だ好きにしたらいい。ただ、お前の親御さんはどう思ってるんだろうな」
「親が何を言おうと、オレの人生なんでね」
 中学の頃、中の上くらいあった成績はすっかり下の中くらいまで落ちていた。学校は度々休むようになり、親もすでに進学は諦めているようだった。
「じゃあ、就職でいいんだな?」
「それもしなくていいかな」
「お前さ、進学はしない、音楽で売れたくもない、就職もしないっていったいどうする気なんだよ」
 担任はイライラとしている様子を隠せずにいた。
「ま、なんとかなるっしょ。どうせ、オレ22歳には死ぬ気なんで何かやるってことに意味が見出せないんだよね」
 はあ〜と大きなため息をひとつ吐くと、薄ら禿げた頭をうな垂れてあちらに行けと手をひらひら振った。
「センセは長生きしてくださいな♪」
 そう言って教室を出たが精一杯のイキがりがこれだった。そりゃ、本音を言えば進学したい。でも今から勉強したって絶対どこにも受かるわけがない。なら目一杯強がってみせるのがケイスケにとってのパンクだった。所詮シラフでバカなのだ。それに「自分にはバンドがある。この学校で定期的にライブハウスで演奏してるやつはオレくらいのもんだ。今はお客さんも少ないけれど、卒業したら学校もないしフルに活動できる。そうすればきっとすべてがうまくいく」そう思ってないと不安でどうにかなってしまいそうだった。
 バンドの練習が終わっていつものファミレスでミーティングをしていると、いつも通りのハイテンションで突然
「はいっ! オレバンドやめます!」
 と、ジムが言った。メンバー全員の頭の上に?マークが浮かぶ。
「ちょ、ちょっと待て待て、それ面白くねーぞ」
 キースが言うとビルはうなずいた
「いやいや、これがホントなんだな」
 あまりの出来事にケイスケは吸わないタバコを1本キースにねだった。
「実はオレ結婚しようと思ってよ。ガキができたんだよ」
「ぶほっ! うえっほ!!」
 タバコに火をつけたケイスケは激しくむせた。
「まあ、ヴォーカルかわるだけでお前らは続けてくれよ」
「バンドの顔であるヴォーカル変わって続けられるかよ!!」
 キースは声を荒げる。適当な活動をしてきたSNAKEだが、メンバー各々それなりの本気はあったのだ。それにヴォーカルのメンバーチェンジなどあまり聞いたことがない。
「お前が誘って集めたメンバーだろ!? あんまりにも無責任じゃねえかよ!」
「それはスマンと思ってるよ。でもこれから先バンドで食ってける保証なんてないだろ。それは嫁や生まれてくる子どもにとってすごく無責任なことだと思うんだよ」
 ジムはジムなりに悩んだ結果だったのだろう。
「オレさ、進路相談の面談で進学しねえって言ったんだよね。大学よりバンドとったんだよ。なのにこれはさすがに、ねえ」
 ジムは「スマン」と頭を下げ続ける。キースは徐々にヒートアップして声は怒鳴り声に近くなってきた。その時
「子どもができるっておめでたいことじゃないのか? オレらメンバーは祝ってやるべきだと思うんだよ」
 いつもうなずいているだけのビルが突然喋ったものだから3人は何かを確認するように顔を見合わせた。
「オレらのバンドは人の命以上の価値があるとは思えない。ビルが子どもを選ぶのは当然のことだ。なあ、キース、ケイ。気持ち良くお祝いしてやろうよ」
「はっ、まあ、そりゃそうか」
 キースは一気にクールダウンしてケイスケが吸いかけたタバコをくわえた。
「すまんな。オレの勝手に巻き込んじまってさ」
「まあ、いいさ。メンバー変えようが、バンド変わろうがオレはギターを弾き続けるだけだしよ」
 ビルはうなずいた。
「とりあえず祝ってやるよ。なあ、ケイ。ところで嫁は誰なんだよ? お前の嫁になるくらいだから人外じゃねえの?」
 ジムはごそごぞとポケットから写真を一枚取り出した。そこには唇の真っ赤なあの女の子が写っていた。(5話参照)
 
20150803-chu

satukimei

五月メイ(SatsukiMei)1974.5.4

埼玉県川口市在住