F T R @
九州発! 日本中が楽しくなるWEB文芸誌。美術館・博物館のイベント情報、気になる本や本屋さん、読みたい物語がきっと見付かります

中年ファッションパンクス7 五月メイ

chunen7

7 すてきな夜空
 
 学校の階段に貼られたチラシには「軽音部ライブ 4F視聴覚室 11:00~」と下手な手書きのイラスト付きで書かれていた。学校中が浮き足立ってわさわさとしている雰囲気をケイスケは嫌いではなかった。学校でのケイスケは別にグレてるわけでもないし、友達がいないタイプでもなかった。成績だって中の上くらいで先生に目をつけられるタイプでもない。夏休み限定パンクス、学校では普通に目立たず暮らしている。当然、退屈ではあるが、その退屈はバンドがあるから我慢ができていた。でも、なぜか今日はそんな学校に自分がいてはいけないような疎外感を感じていた。
「ライブ見にこいよ」
 後ろからポンと肩を叩いたのはヨシオだった。ケイスケは「ああ」と軽く答えて制服にカンバッヂを付けチャラチャラ浮かれるヨシオに苛立ちを覚えた。「だいたいにしてバンドがなんたるかをあいつはわかってない。バンドてのは、ロックてのはあんな服着てやるもんじゃないんだよ。そもそもロックは反抗の象徴なのに真逆である従順の象徴制服着てどうすんだよ」そう思いながら4階の視聴覚室へと足を運んだ。
 黒いカーテンが引かれた薄暗い視聴覚室にはたくさんの女子生徒が床に座り込んでいた。もちろん照明なんかないし、音響設備もどこから借りてきたんだかちゃちいものしかない。叩いたら一発で割れてしまいそうな薄っぺらいシンバル、決して歪まそうなギターアンプ。ケイスケがそんなしょぼいステージを嘲笑気味に見ていると視聴覚室の前の扉からヨシオがギターを持って現れた。「ヒュー!」という声が女子生徒からあがる。そして、メンバーが全員ステージにあがるとヨシオがゆっくりとアルペジオを弾き始めた。それに合わせヴォーカルが歌い始める。
「ふーたりーでー、ゆーっくり過ごしたいけどー きーみにーもぼーくにもやる事があるー♪」
 ジュンスカイウォーカーズの「すてきな夜空」だ。ここでまた女子から声援があがる。「ちっ、チャラチャラしてんな。こんなんどこがロックだよ」とケイスケが思っていると。
「ワンツースリーフォー」
と、ドラムがカウントを打った。そのタイミングで女子生徒達は跳ねるように立ち上がり、ヴォーカルが
「相性はあってないけどー♪」
と歌いマイクを女子生徒へ向ける
「そんなには知らないけれどー♪」
 なんと、みんな歌うではないか。文化祭の急造バンド、とても上手な演奏とはいえない。当然ケイスケよりも下手だ。それでもここ視聴覚室は確実にVoltsより盛り上がっている。練習にもライブにも金を払っているケイスケは激しく嫉妬した。Voltsでのライブなんて観客はいても10人程度、女子にいたってはべったりと顔を塗りたくって煙を吐き出す人が2人。ところがここ視聴覚室はどうだ? 少なく数えても50人以上いる。観客はまぶしく光る肌をもち、その口からは黄色い声援をあげている。パンクだ抗うだなんだと言っても所詮高校生。「オレが嫉妬するのは女にじゃない。才能だ」と偉大なるベーシストであるジーンシモンズはそう言ったが、ケイスケはモテたかった。才能なんかいらない。モテることこそが重要だったのだ。
 視聴覚室でのライブはアンコールまで起き大盛りあがりの内に幕を閉じた。
「下手だっただろ? うちらの演奏」
 汗でへばりついたワイシャツを二本の指でつまみながらヨシオは言った。謙遜ではなく心からそう思ってるようだった。
「確かに下手だったね、でもオレがベース弾いたらもう少しよくなるよ。あと選曲がダサい。あんなのロックじゃないね。そもそも視聴覚室でロックなんてありえないね」
 悔しさからケイスケはありったけの意見を言った。
「そうだよなぁ。やってる人から見たらそう見えるよな」
「当たり前だろ。ライブハウスじゃ絶対通用しないよ」
 ライブハウスで通用しないバンドなぞいない。どんなバンドでもライブハウスは歓迎してくれる。ただ、ライブハウスのステージに立ったことがあるということが唯一のアイデンティティーだった。
「見てくれた上に意見までくれてサンキューな。今度はライブハウスにお前のライブ見に行くよ」
 ヨシオはホントにいいやつで、それがまたケイスケには悔しかった。そしてバンドをやっていながら学校のステージに居場所がない自分に腹が立った。
 後夜祭。日の暮れた校庭でヨシオはまたケイスケに近づいてきた。
「オレ、目立ちたくてバンドやったけどステージ立ったら思ったより楽しくてさ……。もちっと本気でバンドやろうかと思っちゃったんだよな。ケイスケさ、自分のやってる人にこんなこと言うのもなんだけど、一緒にやらない?」
 チャラチャラとしたステージを繰り広げたヨシオだが、音楽への気持ちはケイスケよりもまっすぐだった。パンクでもロックでも無い制服野郎のこんな誘いにケイスケは
「いいよ、来年は一緒にやろうぜ」
 やはりモテたかった。ちやほやされたかった。ちらちらと星が光り始めた夜空の下、来年の自分を想像してニヤニヤした。
 そして1年後。視聴覚室には電撃バップを演奏してダダ滑りしているヨシオとケイスケの姿があった。
「やっぱ、ロックじゃねえよ! 視聴覚室なんて!!」

satukimei

五月メイ(SatsukiMei)1974.5.4

埼玉県川口市在住