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中年ファッションパンクス5 五月メイ

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5 ロマンチスト

 
 ジムは、スタジオのロビーでもみ上げの男が描かれた缶コーヒーを飲みながら言った。
「来週、京都からVoltsにツアバン来るらしいぜ」
 昔からインディーズバンドはやたらとツアーをやりたがる。もちろんプロモーション目的という名目なのだが、どう考えてもこんな田舎町に来るメリットがない。一部インディーズバンドにとってツアーとは文字通りただの旅行。「ツアーに出てるオレかっこいい」という虚栄心を満足させるものでしかないのだ。
「ちなみになんてバンド?」
 そうケイスケが尋ねると
「デバザクラだってよ」
「あー、名前だけは聞いたことあんな」
 キースはそう答えたが、こういう場合は大抵知らない。ビルは黙ってうなずいている。おそらく興味がないのだろう。
「で、そいつらがなんだっての?」
 キースがそう続ける
「せっかくだから、対バンしねえ? オレらも京都ツアー行くかもしんねえし」
『京都ツアー』その響きにケイスケはワクワクした。
(バンドに入ったばかりなのに早くもツアーの話なんて急展開だ。夏休みが終わったら、学校辞めて全国ツアーか)
 歌番組出演にしたときのセリフまで考え、果てはアイドルとのスキャンダル現場を押さえられた時の対処まで頭の中はフル回転だ。
(あ、まだサイン考えてなかったな)
 そうケイスケが思った時
「その前にバンド名決めねえとな」
 ツアーどころか、初ライブもまだ。それどころかバンド名も決まっていない。なんといっても今日が初めてのスタジオ練習だ。アイドルとのスキャンダルにはまだ早すぎる。
「ケイ、お前まだ学生だろ? 若いんだからなんかアイデアねえのかよ?」
 学生だとアイデアが浮かぶかどうかは知らないが、どんな業界でも「若いんだから」という理由でなにかと事を押し付ける。
「そ、そうだね……」
 急に振られたところで何かでてくるわけもない。しばらく沈黙の後
「スネーク、SNAKEってどうかな? SNAKEってさ、和訳すると『冷酷な人』みたいな意味があるんだよ。なんかかっこよくない?」
 と答えた。なんのことはない。壁に貼ってある「WHITE SNAKE」のポスターが目に入っただけだ。ところがまるで前から考えてたかのようにケイスケが話すものだから
「さすが、現役の学生さんは違うねえ」
 と、ジムもキースも感心することしきり。ビルは相変わらずうなずいているだけなのできっとこの話にも興味がないのだろう。
「じゃあ、それで。来週SNAKEの初ライブ決定な」
 ツアーこそ決まらなかったものの、ケイスケにとっては人生初のライブが決定した。
 陽が高いうちにVoltsに到着。地下へと繋がる階段は誰も座っておらず太陽が照り付けている。
「おはようさん」
 重い扉を押し開けるとライダースジャケットを着たジムがいてデバザクラはすでにリハーサルを行っていた。長距離移動の疲れなのか、なんだかダルそうにリハーサルをしている様を見てジムはイライラしていた。デバザクラのリハーサルが終わると、ケイスケは楽屋に荷物を置きステージに上がった。ステージ下手からはリハーサルを終えたデバザクラのメンバーがニヤニヤとこちらを見ていた。
「ハッ!!! チェック! ハーッ!」
 突然ジムがマイク越しに大声を出したものだから、ケイスケとデバザクラのメンバーはビクッと身をすくめた。キースとビルは慣れてるようで平然としている。ジムはケイスケに近づくと軽くローキックをして、胸を指さしてセンターの立ち位置へと戻った。少し緊張の溶けたケイスケがなんとかリハーサルを終え楽屋に戻ると、バッグに入れていた財布がなくなっていた。SNAKEのメンバーが犯人でないとすると、楽屋を出入りしている人間は限られているがケイスケにはそれを言い出す勇気はなかった。
 だだ下がりのテンションの中、初ライブははじまった。
「今日はわざわざ京都から来てくれたバンドがいるからみんな盛り上がってくれよ!」
 と、10人もいない観客の前でジムが声を張り上げると、まばらな拍手でライブは終了。安堵感から財布のことは頭の片隅に追いやられていた。そしてデバザクラは相変わらずダラダラとステージに上がっていった。
「つまんねーとこやね、ここ」
 そういうと誰の目にも適当に見える演奏がはじまった。片手で叩くドラマー、座って酒を呑むボーカル。ただ、弦を叩くだけのベーシスト。そんな演奏とは言えない状態が2曲続きボーカルがマイクを握り口を開いた時に事件は起きた
「ウチらぁ、ライブより喧嘩が得意なんでぇ、もしなんか文句あんならかかってきてくださいや」
 と、言い終わるや否やジムがキースがビルがステージ飛び乗ってボーカルを殴りつけた。それに他の観客も続く。デバザクラもさすが喧嘩が得意というだけあって、ステージ上は大乱闘。ケイスケはそれを見て怖くなり、トイレへ逃げ込んだ。
 逃げ込んだトイレには暗い階段で男にまたがっていた赤い唇の女の子がいた。女の子は少し微笑むとげんなりした顔で
「はぁ、男ってホントばか。3人以上集まるとすぐイキがる」
 と、誰に言うでも無くつぶやいた。ケイスケは
「こ、こんなところで怪我をするのもつまらないしさ、何より怒る理由がわからないよね」
 と返すと
「ホント、男って見栄っ張りで意地っ張り。あなたは少し違うのね」
「くだらない見栄なんか張っても仕方ないから……んっ」
 女の子は突然舌をからめてケイスケの口を塞いだ。
「あれ? どうしたの初めて?」
 もちろん初めてだった。
「違うに決まってんだろ!」
「やっぱりね……男ってホント見栄っ張り」
 そう言われて女の子のなすがまま、乱闘が続く外をよそ目にトイレの中で童貞を失った。ことを終えてぼーっとしたままトイレを出るとステージ上の乱闘はまだ続いている。よく見ればそのステージ上には無くなったはずの財布があった。少し血がついたステージへと身体を乗り出し財布を拾ったケイスケは楽屋の荷物を取りそそくさと階段をあがった。地上にあるVoltsの看板には「本日の出演者『デバザクラfrom京都』『SNEAK』と書かれてあった。

satukimei

五月メイ(SatsukiMei)1974.5.4

埼玉県川口市在住