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中年ファッションパンクス3 五月メイ

chunen

3 My way
 
「サラリーマンにはなりたくない。スーツを着て満員電車に揺られて通勤なんて冗談じゃねえ」
 そう言いながらケイスケは高校へ進学した。パンクを気取ってはみたものの、やはり将来を考えたら高校くらいは出ておきたい。そんなセコイ考えがそこにはあった。誕生日に買ってもらったベースも何度か弾いて、ヒロユキと二人でスタジオに数度入ったきり触っていなかった。ボンボンと鳴るだけの楽器は一人で弾いても味気ないもので楽しさがわからなかった。
 高校は電車で三十分ほどの私立高校だった。ヤンキーは最早絶滅に近づいており学校は平和に満ち、恋愛などの青春を謳歌するもので溢れていた。しかし、ケイスケはまた退屈を感じていた。せっかく何かに抗って生きて行こうと決めたのに、この平和な学校には抗うものが何もなかった。再び訪れた退屈の日々。授業中は教科書に好きなバンドの歌詞を書き、窓の外を眺めて過ごした。
 それは夏休み直前の金曜日だった。期末テストも終わり、のんびりとした日々が退屈に拍車をかけ、楽しみなのは深夜のテレビかラジオくらい。ケイスケもすっかり夜型になっていた。その日、目が覚めたのは始業の三十分前。布団から飛び起き「なんで起こしてくれなかったんだよ!」と母親に言おうとして「そんな漫画みたいなセリフわざわざ言うこともないか」と冷静に支度を始めた。学校までの道のりは三十分ギリギリかかる。急いで支度をして全力で自転車のペダルを踏めば間に合わない時間じゃない。そう考えながらバタバタと制服を着て家を飛び出した。真夏の太陽照りつけるアスファルトの上、全身に汗を噴き出させながらペダルを踏む。なんとかチャイムと同時に校門にたどり着くことができた。ところが
「はい、アウト」
 ジャージ姿の体育教師はケイスケの汗で濡れたワイシャツをなんとも思わないかのようにそう言った。
「チャイムと同時でしょ? セーフ……」
 そう言って校門をくぐろうとした瞬間襟首を掴まれ
「アウトなんだよ。チャイムが鳴り始めたら遅刻。なに勝手に入ろうとしてんだよ」
 と、突き飛ばされた。
「とりあえず、お前座れよ」
 教師の持つ絶対的な権力を振りかざしそう続ける。しぶしぶその場にしゃがみ込むと、今度は頭を押さえつけ
「正座だよ、せ・い・ざ」
 などと、すごんでみせた。
「お前、何組で名前は? 時間を守るなんて簡単なルールも守れねえやつはな、生きてる意味もねえんだよ!」
 口角泡飛ばし聖職者とは思えないセリフをつきつける。
「1限目が始まるまでここで正座してろや。担任にはオレから言っとくからよ」
 汗で濡れたワイシャツが肌に張り付き、真夏の日差しはジリジリとケイスケを照りつける。教室の窓からニヤついた連中の顔が見える。夏休みを前に浮かれた生徒達の気持ちを引き締めておこうという学校側の目論見もあったのかもしれない。けれどこの時、ケイスケの中に生まれたのは反省ではなく反抗の二文字だけだった。
 ところが、これほどイラつく出来事があったにも関わらず夏休みのケイスケはいたって穏便だった。そして、やはり退屈だった。昼過ぎに起きてテレビゲームを起動。だらだらと夜までプレイして深夜はテレビとラジオ。これ以上ないくらい無意味に夏休みを消化していく。
 その夜は大雨が降っていた。バタバタと雨が窓を叩き、ゴウゴウと風が唸る。ケイスケはいつも通りクリアしたゲームのレベル上げをしていたがやがてそれにも飽き、なにするともなくテレビをつけた。見るものも特になくリモコンのボタンを押していると海外の映画の一場面が映し出された。
「And now the end is near〜♪」
 誰もが知っている「My way」の一節が流れてきた。しかし、ブラウン管に映っているのは初老のフランクシナトラではない。髪をツンツンと逆立てひょろり痩せたいかにも「クソガキ」といった若造だ。そのクソガキが口をひん曲げ歌っている。いや、がなっている。そして「I did it my way!」と歌い終わると客席に銃を乱射し、中指を立ててステージから消えていった。どこからどう見てもB級でくだらない映画にケイスケは夢中になった。映画が終わる明け方ごろ、外の雨は激しさを増しゴゴガゴゴと空襲のような音を立て雷が鳴っていた。
 翌日昼ごろ目覚めたケイスケは安全ピンを火であぶり右耳に穴を開けた。そして久しぶりにベースを持つとボンベンと音を鳴らした。5分もして耳たぶが充血し熱を持ってくるとベースを置き安全ピンをそっと触った。そして手元にピアスが無いことに気がつき安全ピンをつけたままツツミへ向かった。初めて入った宝石店でなるたけ安いピアスを見つけて購入し家に帰ると、今度はジーパンの膝を破く。ジーパンはキレイに横に裂け、ボロボロとしたイメージにはほど遠い。けれどそれを履いてみるとなんとなく自分があの映画のクソガキに近づいたような気がして、ぴょんぴょんと踊り出してしまった。

Great Rock N Roll Swindle

satukimei

五月メイ(SatsukiMei)1974.5.4

埼玉県川口市在住