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中年ファッションパンクス2 五月メイ

chunen

2 宣戦布告
 
 その日を境にケイスケの退屈は変わった。妄想で過ごしていた授業は教科書に歌詞を書きなぐる時間へと変わり、ホッケーをするための箒はエアギターの道具になった。しかし、やることが変わったからといって退屈は相変わらず。何かに抗うということを漠然と思っていながらも、何に抗うべきかわからない。かといってグレる度胸もないし、今更ヤンキーグループには混じることができない。「何かをしなければ……」そんなときヒロユキが兄からギターを譲り受けたという話をしてきた。学校が終わると飛び乗るように自転車へ乗り、道すがらコカコーラライトを買ってヒロユキの家へと向かった。
「ほら、これ見てよ」
 そうやってヒロユキはギターを担いでみせた。真っ赤なボディでヘッドには「S.galaner」と書いてある。ケイスケは、ただギターを担いでいるだけのヒロユキが羨ましくて仕方なかったが、それをできるだけ悟られないよう
「なんか弾けんの?」
 と、尋ねた。すると小さなアンプにギターをつなぎ、適当な弦を押さえ。堂々とした態度で「ちゃらーん」と不協和音を鳴らした。
「なんも弾けね」
 それを聞いたケイスケはなぜかほっとした。
「ちょっと担いでみる?」
 そう言って肩からギターを下ろし差し出されたので、なんとなく見よう見まねでギターを担いでみた。「意外と、重たいんだな……」そう思い照れ笑いを浮かべながら同じように適当な弦を適当に押さえ「ちゃらーん」と不協和音を鳴らした。
「なるほど」
 一体何を理解したんだかわからないがケイスケはそう呟いた。それから何度か交代でギターを担ぎ「ちょーん」やら「しゃーん」やらわけのわからない音を出して
「あ、いまのはそれっぽかったんじゃない?」
「こういう持ち方かっこよくない?」
 などと馬鹿なことを言って過ごした。二人が初めて触った本物のエレキギターはほんのりタバコの匂いがして、塗装が所々剥げ弦は5本しか張られていなかった。それでもなんだか退屈だった日常が少しだけ変わる。そんな気がしていた。買ってきたコカコーラライトがすっかりぬるくなっていたことからもそれは確かに感じられた。
 次の日曜日、二人は町でひとつしかない楽器屋に向かい足りなかった弦を買い足してチューニングメーターと教則本を購入した。帰り道
「オレもギター欲しいなあ」
 というケイスケに
「同じ楽器持っててもバンドはできないからベースにしなよ、ベースに」
 とヒロユキは応えた。「それじゃお前ばっかり目立ってオレが目立てないじゃねえかよ」ケイスケはそう思ったが
「そうな、ベースな」
 とだけ言った。そして家に帰ると
「ねえ母さん。誕生日、ギターが欲しいんだけど」
 と母親にねだった。母親の答えは意外なもので
「ギター? あるわよ」
 そういって物置から古いアコースティックギターを取り出してきた。
「ほら、父さん昔ギターやってたのよ。フォーク世代でね」
 多少形は違えども、欲しかったギターがこんなに簡単に手に入るとは。自分はギターの神に見初められたに違いない。中学生の妄想はそこから大きなステージに立つところまで暴走気味に加速していった。
 その日からケイスケは自分の中でギターヒーローになった。「学校でギターを弾いてるやつなんてオレとヒロユキくらいのもんだろ」その思いが他人より優れている自分を作り上げた。授業中はカンペンケースにマジックで六本の線を引き運指のまねごとをする。ここで大事なのは自分からギターをやってると言わないことだ。誰かに「なにそれ?」と言われて「実はギターはじめてさ」となる。「自分から言うなんてただのウザいヤツじゃねえか」などと考えていたが、正直どっちも変わらずウザい。そして、カンペンケースのギター練習は誰にも気付かれることがなかった。それでもよかった「誰にも気付かれないうちにこっそりギターを練習すればいい。うまくなったら人前で演奏すればいい。どいつもこいつも見てろよ、こいつはオレなりの宣戦布告だ」そう思って家に帰るとギターをいじった。しかし、三日経ってもギターは一向に上達しない。一曲も弾けるようにならないのだ。四日目の夜、酔って帰ってきた父親に
「父さん、ギター弾けるんでしょ?ちょっと教えてよ」
と言った。父親はギター奪い取るとピックを使わず爪弾きはじめた。そして歌い出した。
「あなたは〜もう、忘れたかしら」
 忘れたもなにも、覚えがない。「神田川」など聞いたこともない。ロックでも無けりゃパンクでもない。でも確かに父親はギターが弾けた。
「そういうのじゃなくてさ。なんかもっとあるじゃん、こうジャーンて感じの」
「そういうのはFのコードが押さえらればできるようになるよ」
 けれど、ケイスケがFのコードを鳴らす日はとうとう来なかった。練習をはじめて一週間経った日、ケイスケは母親にこう言った。
「ねえ母さん。次の誕生日にさ、ベースが欲しいんだけど」

THE STARCLUB/宣戦布告

satukimei

五月メイ(SatsukiMei)1974.5.4

埼玉県川口市在住