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中年ファッションパンクス 1 五月メイ

chuunen

1 未来は僕らの手の中

 坊主頭にニキビっつら。ケイスケはどこにでもいる田舎の中学生だった。まだ学ランが主流だった1980年代後半。「番長」とやらはすでに絶滅していたが、どこの学校にもボンタンや短ランなどの改造制服を着たいわゆる「ヤンキー」と呼ばれる輩がちらほらと見受けられた。無個性の象徴である制服に個性をもとめ揃った改造を施し、極端に校則を嫌うにもかかわらず、なぜか同類同士群れて「掟」というルールを作る。とかく変わった習性を持つ彼らではあったが、学校という小さな社会の中では幅を利かせていることが多かった。数だけでいえば圧倒的少数であるにかかわらず、その権力は時に教師に意見するまでに及んだのだから驚きだ。
 当時の学校はそんなヤンキーと普通の人という二種類に分別された。今のようなオタクなどはいたとしても普通の人に分類された。勉強できる人も、スポーツできる人も、歌がうまい人もみんな普通の人だ。日常がいかに退屈なのかが見て取れる。
「なんかおもしろいことない?」
 繰り返されるこの言葉。ケイスケもそんな普通の人だった。退屈しのぎの妄想で授業を過ごし。掃除の時間は箒でホッケー。部活は小学生の時に通ったという理由だけで水泳部。テスト前には慌てて勉強、平均点は70点。性欲を持て余した友人たちとエロ本やAVの上映会。たまに隠れて酒を呑み。むせながらタバコを咥える。楽しくないことが日常なのであって、これはきっとずっと続くのだろう。そう思うと息がつまる思いがしたが、このまま普通の高校に進学し、大学へ行き、サラリーマンになることになんら疑問を持たなかった。
 そんな中二の夏休み。部活が休みなケイスケは同じように時間を持て余しているヒロユキの家へと自転車で向かった。ジリジリと照りつける太陽の下ペダルを踏んでいると、この田舎町で一生このまま暮らしていくことに漠然とした不安を感じた。その不安の正体はなんだかわからないが、ただ退屈しているだけなんだと自分を納得させ汗を噴き出させながらヒロユキの家へと急いだ。
 ヒロユキとは小学校から馴染みの顔だ。とは言ってもこんな田舎町。学校のほとんどが小学校から知った顔に決まっている。ケイスケとヒロユキは特に昔から仲がいいというわけではなかった。中学校にあがってたまたま同じクラスになり、それをきっかけにいろいろと話をするようになった。その話も大概が「三中のオンナはすぐやらせてくれるらしいぜ」だの「3組のヒロコ、あいつもう処女じゃねえらしいよ」なんて、いかにも中学生らしい他愛もない話だ。それでも二人はなんとなく気が合った。
 ケイスケがクーラーの効いた部屋で氷の入った麦茶のグラスを頬に当てているとヒロユキが突然口を開いた。
「THE BLUE HEARTSて知ってる?」
 ケイスケはキョトンとした。誰もがいつも「なんかおもしろいことない?」で会話を始めるのに突然の質問。これはきっとおもしろいことに違いない。
「知らないなぁ。でも突然そんなこと言うんだからおもしろいんだろ?」
「それがさ、すげーんだよ! ちょっとこっちの部屋で聴こうぜ」
「なんだよ、誰かの曲かよ。興味ねえよ」
 そういうケイスケをヒロユキは兄の部屋へ連れていった。三つ上のヒロユキの兄は二種類でわけるならヤンキーに分類される。部屋に入ると灰皿には溢れんばかりの吸い殻、壁に空いた穴、工事現場のカラーコーン、なぜかわからないが陳列されているバドワイザーの空き缶。
「おまえ、勝手に入るとまたアニキに怒られんじゃないの? やめとこうぜ」
 というケイスケの制止を振り切りヒロユキはステレオに1枚のCDをいれた。それは自動再生でボタンを押すことなく再生される。突然流れ出した大音量のドラムに続いてがなり声の男が叫ぶ、いや、歌う。
「誰かのルールはいらない、誰かのモラルはいらない学校も塾もいらない、真実を握りしめたい♪」
 それはケイスケにとって初めての経験だった。血液が沸騰するんではないかという感覚。なにかを破壊したい衝動。動かずにいられない身体。
「な、すげーだろ?」
 と、いうヒロユキの言葉はもう耳には入っていなかった。退屈だったこの街で何が足りないかが今ケイスケにはハッキリとわかった。それは「抗う」ということだった。なんでも受け入れ納得した気になっていた。そうすることが当たり前だと中二なりに達観していた。
「僕らは泣くために生まれたわけじゃないよ 僕らは負けるために生まれてきたわけじゃないよ♪」
 わずか2分25秒の衝撃。田舎町のいわゆる普通の男子中学生を洗脳するにはこのフレーズがあれば十分だった。この2分25秒が後にケイスケの人生を大きく狂わせるとはヒロユキはおろかケイスケ自身も予想できないことであった。

未来は僕らの手の中/THE BLUE HEARTS

satukimei

五月メイ(SatsukiMei)1974.5.4

埼玉県川口市在住