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ビジツカンのどうぐ3「ハンカチ」 林田龍太

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第三回「ハンカチ」
――持主の外見との兼合いが気になる道具です――

 
 いつクレームが来るかドキドキしながら第三回目を迎えたこのコラム。今回は「ハンカチ」です。学生時代、師匠にこんなことを言われたことがあります。「ハンカチを持たない者に、学芸員を名乗る資格はない」。名探偵フィリップ・マーロウあたりが言いそうなセリフですが、これは事実。確かに、社会人のエチケットとしてハンカチを持っておくのは当然のことではあるのですが、我々学芸員にとって、このハンカチは「エチケット」という言葉以上に、重要な意味を持っているのです。
 職務上、我々学芸員は美術品に直接触れることが多くあります。触れるというと簡単に思われるかもしれませんが、我々の手には、ひょっとしたら先ほど食べたチキン南蛮弁当のタルタルソースや特製甘酢ソースが付いているかもしれません。ですので、手の汚れには細心の注意を払う必要があります。だったら手袋、とお思いの方もおられるかもしれませんが、手袋もそう万能でもありません。細かな作業をするときにはむしろ邪魔になってしまうこともありますし、表面がブツブツしている工芸作品などの場合ですと、布製の手袋だと繊維が引っかかって作品を傷つけてしまう恐れもあります。そんな時は、やはり素手が一番という訳で、私達は作品に触れる前には、必ず手を洗いますし、洗ったあとには必ずハンカチで手を拭うようにしているのです。
 さて、私の経験上、学芸員がお持ちのハンカチは、綿などでできた普通のハンカチと、いわゆる「ハンドタオル」の二種類に分かれているように思われます。当館の学芸員Aさんは後者の派。この方、大層汗っかきかつ暑がりでして、木々も色づき始めた10月も半ばに一人半袖シャツで「いや~、暑いね!」というさわやかな時候の挨拶と共にご出勤されることがあります。こんな言葉を聞いた日には、体質などという瑣末な問題を超えた、Aさんの哲学めいた何かを感じずにはいられません。
 しかしAさんのハンドタオルにはひとつ、気になる点があります。それは、時折お持ちのもののタグに、商品名として「天使のほっぺ」と書いてあることです。
 ここでAさんの特徴についてディスクリプションをさせていただきますと、非常に穏やかかつジェントルな50代の男性でして、内面に如何なる修羅が渦巻いておられるかは別としても、そのご尊顔は日本マンガ界の巨匠・T塚治虫を思わせるものがあります。
 しかし体躯はガッチリかつ長身であられまして、一言でいうならば「登山部のT塚治虫」といったところでしょうか。そんな御方の逞しい腕に「天使のほっぺ」がむんずと握られているのです。本コラム掲載後に私が受けるであろうAさんの内なる修羅を込めた鉄拳制裁を恐れずに書くならば、Aさんが持つ「天使のほっぺ」は心優しきフランケンが持つ一輪の野花の如し!
 Aさんが離席されている時、机上に「天使のほっぺ」がぽつねんと残されていることがあります。天にまします神の使いも、寄る年波とAさんが流す大量の汗には勝てないのでしょうか、そのほっぺもややお疲れ気味のようにも見えます。そんな時、「もののあはれ」を感じてしまうのは、私だけでしょうか。私だけでしょうね。
 
初出:『熊本県立美術館だより View』147号 2013年12月

(次回は「ライト」です。)

<参考文献>
監督:山田洋次『幸せの黄色いハンカチ』
たこ八郎が武田鉄矢をボコるシーンは必見です。


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細川コレクション展 細川コレクション展示室 第Ⅱ期〈特集〉能の世界
 江戸時代、能は武家の「式楽」として幕藩体制の中に組み込まれ、幕府や諸大名の保護を受け隆盛しました。年中行事や儀礼の場において、公式の舞楽として能が上演されたため、幕府や諸大名は演能に備えて能役者を召し抱え、膨大な数の能道具を収集する必要がありました。細川家では代々能を愛好し、近世以来収集された数多くの能面・能衣裳が今日まで伝来しています。本展では、細川家伝来の能道具を通じて、近世に花開いた能の世界を紹介します。
 


ミュージアムセミナー「大名と能」も開催!
【日時】7月18日(土)14:00~15:00
【場所】本館講堂
【講師】才藤 あずさ(当館学芸員)
【参加費】無料
【申込】不要

熊本県立美術館

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林田龍太(はやしだ りゅうた)

熊本県立美術館。福岡県出身。専門は日本近代美術史。2008年より現職。2010年冬頃より下町の鍋奉行として暗躍。好きな具は白菜(草食系)。