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かなしみを大切に握り締めて。『悲しみの秘義』若松英輔

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 涙は、必ずしも頬を伝うとは限らない。悲しみが極まったとき、涙は涸(か)れることがある。深い悲しみのなか、勇気をふりしぼって生きている人は皆、見えない涙が胸を流れることを知っている。
 悲しみを生きている人は、どんな場所にもいる。年が改まり、世がそれを寿(ことほ)ぐなかでも独り、悲しむ人はいる。この悲しみには底があるのかと思われるほど、深い悲嘆にくれる日々を過ごす人もいるに違いない。

 
 新しい年の始まりに、どうしてもこの本を紹介しておきたい。
 すでに手にした人も多いはずだ。美しい、本であり、かなしい、同時にやさしい本であり、とてつもなく、厳しい本でもある。
 ナナロク社といえば、谷川俊太郎さんの『あたしとあなた』を刊行するにあたって、紙からつくった、というほどの、本当にこだわりのある素晴らしい出版社で、この「悲しみの秘義」についても、恐ろしいほどに美しい。カバーは6種類、表紙は9種類もあるという。
 たたずまいから美しい本には、美しい言葉が並ぶ。その美しさは醜さを内包するし、醜いということは美しいということに他ならない。傷口をむき出しにして、静かに涙を流すひとは美しい。かなしみの底で沈黙し、まばたきさえ忘れて胸の奥で慟哭するひとは美しい。ありのままの、そのひとは美しく、かなしく、どうしようもなく、そこにある。
 
 この本には、そうした全てを、丁寧に掬い取るような文が並ぶ。
 一つずつ、丁寧に丁寧に、読みたい本だ。
 ほかに、余計な言葉はいらない。今、一番読まれてほしい、すぐれて素晴らしい本であると、断言しておきたい。
 

IMG_1740『若松英輔エッセイ集 悲しみの秘義』 若松英輔
ナナロク社
装画:ひがしちか
ブックデザイン : 名久井直子
判型 : B6変形 仮フランス装 160ページ
価格 : 1,600円+税
発売 : 2015年11月27日
ISBN : 978-4-904292-65-5 C0095